欧州連合(EU)は23日にブリュッセルで首脳会議を開き、地中海からの移民の危機的な状況について協議する。首脳らは、今欧州が直面する最も深刻な問題のひとつに立ち向かうために、確固たる戦略で合意する必要がある。
イタリアの船舶からの上陸を待つ難民(22日、イタリア南部サレルノ)=AP
欧州の指導者らによるこの緊急首脳会議の招集は、南部境界で起きている人道的悲劇を認識しているという意味では歓迎される事実だ。しかし、今年すでに地中海での溺死者は約1600人にのぼり、政治的なジェスチャーや中途半端な対策に時間を費やしているひまはない。EU指導者らは、欧州南部の境界で溺れ死ぬ人々をなくすために強力で広範な計画を打ち出すとともに、無法地帯のリビアで活動する密入国請負組織の摘発に向けて行動を取る必要がある。
地中海を渡る移民の流入が前例のない水準に急増するなか、その対応をめぐって相反する見方がある。人権団体は、EUが昨年、イタリアによる捜索救助活動の規模を縮小してより限られた国境警備任務に置き換えたと批判する。彼らは、人命救助を明確な任務とした大規模な船団の配置を23日の首脳会議で決めるべきだと主張している。
一方、捜索救助活動を元に戻せば危険を冒して渡航する移民を際限なく招き、欧州が抱えきれない難民の流入を促す事態になると考える政府の指導者もいる。そうした指導者らは、EUが密輸船に武力行使、つまり、リビアの海岸で移民を乗せる前に密輸船を破壊することに重点を置くべきだとしている。
犯罪的な密輸ビジネスにより強く対処するのはもちろん歓迎すべきことだ。EUは近年、ソマリア沖で海賊を掃討する「アタランタ作戦」を行い、重要な外交政策上の成果を上げた。EUは、ソマリアの海賊を追跡して捕らえ、海賊船を押収することで、国際海運の脅威となっていた事態の収拾に貢献した。
■問題は密輸ビジネスだけではない
しかしEU指導者らは、こうした軍事任務を唯一の解決策、あるいは即効性のある方策とみなすことには注意を払わなければならない。そうした対策にはリビア当局または国連からの負託が必要になるが、必ず得られるとはかぎらない。リビアの密輸ネットワークに関する西側の情報も少ない。そして何よりも、自暴自棄ともいえるサハラ以南のアフリカと中東から欧州に渡る移民の姿勢は、密輸ビジネスが容易に壊滅されるものではないことを意味している。
そのため、EUは密輸組織対策で確かに行動できるが、ほかの懸念にも対処する必要がある。EU加盟28カ国は、難民、とりわけシリア難民の再定住に向けた負担の共有でより努力しなければならない。これについてドイツとスウェーデンは立派に行動したが、英国の対応はひどいものだ。EUは、リビアの各派閥を和解させる努力を強めるべきだ。そうすれば混乱で移民が急増していた国に安定が戻る。
何よりも重要なのは、EUが地中海での海軍の任務の目的を捜索救助とし、必要な財源の付与を確実にすることだ。もしEUがグローバルプレーヤーとして道徳的権威を保ちたければ、人命救助の問題で妥協してはならない。
アフリカや中東から欧州を目指す移民の流入は、数度夏が過ぎれば消滅するような現象ではない。これは、徹底的な対応が必要な長期にわたる人口流入の問題だ。欧州の指導者らは、23日の首脳会議で移民についてある程度は政治的な力を示す必要がある。これまで痛いほど欠けていた力だ。これは重大なことがらで、もう一度「欧州の時」と言うべきなのだ。
(2015年4月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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