【ロンドン=小滝麻理子】5月上旬の英総選挙(下院選)で勝利し、保守党の単独政権を成立させたキャメロン首相は27日、今後1年間の施政方針を発表した。国家元首であるエリザベス女王が上院で読み上げた。欧州連合(EU)と加盟条件を巡り交渉することを優先課題に掲げ、移民の受け入れ制限などを求めることを示唆した。公約だったEU離脱の是非を問う国民投票を実施するための法案を28日にも提出し、早期可決を目指す。
施政方針演説するエリザベス女王(27日)=ロイター
女王は27日、国会議事堂での英議会の開会式に出席した。冒頭で恒例の施政方針を読み上げた。
女王は演説で「英国とEUの関係について改めて交渉し、すべての加盟国の利益になるようなEU改革を追求する」と述べた。そのうえで「英国がEUから離脱することの是非を問う国民投票を2017年末までに実施するための法案をできるだけ早く可決させる」と表明した。
保守党内にはEU離脱の賛成派もいるが、キャメロン氏自身は離脱に極めて慎重だといわれる。それでも国民投票に踏み切るのはなぜか。東欧をはじめとするEU域内から経済が好調な英国に流れ込む毎年20万人以上の移民が、有権者の職を奪い、多額の福祉予算を費やしていると批判する世論が強いためだ。政権は配慮せざるを得ない。
施政方針演説は英北部のスコットランドで再び独立機運が高まっていることを踏まえ「1つの国家として取り組む」とも強調し、地方への権限移譲を一段と進めると説明した。英国内でのイスラム過激思想の拡大に対抗するためインターネット上のデータを捜査しやすくする新法も導入する。
演説を受け、英政府は早ければ28日に国民投票法案を議会に提出する。首相官邸によると、投票権を持つのは英国や英連邦の国籍を持つ18歳以上の英国居住者などで、英人口の7割に当たる約4530万人。英国に住むほかのEU加盟国の市民は英地方選への参政権はあるが、今回の国民投票には参加できない見通しだ。
キャメロン氏は28日から29日にかけドイツのメルケル首相や、フランスのオランド大統領、英国への移民の送り出し国として域内最大のポーランドの首脳などと相次ぎ会談し、EU加盟条件の見直しに関する交渉を進める。独仏をはじめとするほかのEU加盟国は英が求める移民の受け入れ制限などを「欧州統合の精神に反する」と反発しているためだ。
英政府はEUとの加盟条件見直し交渉を早期にまとめ、なるべく早く国民投票に踏み切りたいようだ。将来のEU離脱リスクが残るままでは英国への投資が細りかねないと産業界が危惧していることも背景にある。
政権としても、これからは社会保障支出の削減など不人気な政策を迫られ、支持率が高いうちにEUを巡る問題にけりをつけたい思惑がある。英国内では16年5月のスコットランド議会選が終われば国民投票が可能になるとの見方がある。