通行中の人が集団で一斉に逃げる行動を検知する。画面中央に「異常疾走」の文字が現れる(NEC提供)
監視カメラを通じて混雑状況や異常事態の発生をいち早く察知。放置されたままの不審物も自動で検知できる――。主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせて強化する首都の警備に、警視庁が最新技術を導入している。警備の効率化は2020年東京五輪・パラリンピックの重要課題。今回は4年後の本番に向けた実証実験の場にも位置づけられる。
監視カメラに映る人の流れが激しくなると、画面の中央に「過剰混雑」の文字が現れ、通り過ぎる人の数を示す数字が増えていく。その中の1人が倒れると、取り囲む密集の一帯が赤色に変化した。
NEC(東京都港区)が開発した「群衆行動解析技術」。画像に映る人混みの人数を10%以内の誤差で数値化する。人が密集した場所の画像数十万枚のパターンを解析し、画面に映る人数の推計を可能にした。
例えば、何者かが刃物を振り回し、群衆が急に動き出すようなケースで状況の変化を感知できる。開発リーダーの宮野博義さんは「カメラとつなぎ、異常が起きたときだけ知らせるので監視員の負担が小さくなる」と話す。
13年9月に東京五輪の招致が決まってから、警視庁は新たな警備機材の導入に本腰を入れた。五輪は競技会場が都内に集中する。人が集まる場所や交通機関などの「ソフトターゲット」も含め、多くの場所を同時に警備する必要がある。各企業の製品の情報を集め、開発中の最新技術の実用性を試している。群衆行動解析技術も、その一つだ。
26、27日に三重県志摩市で開かれる伊勢志摩サミットでは、都内の警備に最大で約1万9千人を投入する。それでも警察官の目だけで守りきるのは難しいとみて、公共施設や交通機関に設置されている一部のカメラと群衆行動解析技術のシステムをつなぎ、異常事態の発生をいち早く確認するのに役立てる。
NECが開発した別のシステムの実証実験も行う。監視カメラの映像から、一定時間放置されている不審物を自動的に検知するシステムだ。夜間の警戒が重要になる施設の警備では、人工照明や星明かりなどのわずかな光源だけで被写体を認識できる超高感度カメラと、800メートル離れた場所から撮影可能な赤外線カメラを試す。
■空に海に新技術
伊勢志摩サミットのテロ対策は、他にも様々な機材が使われる。
警察庁は会場の賢島(かしこじま)を囲む海上で、水中の金属を探知できるソナーを用意。不審船などが現れた場合に確実に対処するため、警備艇や水上バイク、ゴムボートに加え、ジェット噴射で浅瀬でも高速運航できる特殊な船艇も準備した。
このほか、空中でドローン(小型無人飛行機)を捕獲する迎撃ドローンや手動で網を発射するネットランチャーを配備する。ドローン発見用の探知機も備える。
警視庁は今年2月の東京マラソンでも、群衆行動解析技術を含めた新しい機材を導入して警備態勢を組んだ。
スタート地点では、警備会社大手のセコム(東京都渋谷区)の顔認証システムで一部の参加者の本人確認をした。沿道を巡回する警察官は、拡声機を通して声を自動翻訳する「メガホンヤク」を装備。パナソニック(大阪府門真市)の製品で、日本語を英語や中国語、韓国語に訳してくれる。今後は翻訳できる言語を10カ国語まで増やし、首にぶら下げるペンダント型や対面で使えるタブレット型を開発しているという。
上空からの見張り役として、ズーム機能のある高性能のカメラを積んだ飛行船やドローンも登場。警視庁は五輪本番までにさらに技術の試行を繰り返し、性能の向上を競う各企業の開発を後押しする。競技会場は海が近い場所が多いため、海上からのテロに備える技術の検討も進める。(小林太一、八木拓郎)