春のキャンプで、ファンにサインする黒田
■スコアの余白
今季限りで引退した広島の黒田は「プロとしてのあり方」を強く意識していた。特に新鮮に映ったのは、ファンサービスへの向き合い方だった。
スコアの余白2016
春のキャンプで宮崎・日南入りした日、練習が終わるとファンから差し出される色紙やユニホームにサインした。その翌日も嫌な顔一つせずに応じ続けた。ファンの列が途切れずに、球団職員が急きょ交通整理に動くことになった。シーズン中も気の休まるはずの登板翌日、ビジター球場で筆を走らせた。
大リーグでも実績を残した41歳のベテランがなぜ、ここまでするのか。キャンプで率直に疑問をぶつけると、「アメリカで僕のサインを欲しがる人は少なかった。ペン一つで喜んでもらえるなら」と答えた。そして、こう付け加えた。「できる時間は限られているので」。引退が迫っている、と実感した瞬間だった。
大リーグ移籍前の本拠、旧市民球場時代の体験もある。「ファウルがスタンドに入っても、誰に当たることもなく、椅子に当たっていた」という。客足は鈍く、球団幹部と集客の知恵を出しあった。その一つとして、ビジター球場でも客席にボールを投げ入れた。
黒田の復帰が、高まりつつあった全国的な広島人気に拍車をかけた。「昔いたときは、考えられないですから」。チームカラーの赤に連日染まるマツダスタジアムの話を振られると、いつもうれしそうに言った。