国産スギで作られた卒塔婆(右)と、トウヒで作られた卒塔婆用の板
法事やお盆になると墓に立てられる卒塔婆(そとば)。先祖の戒名やお経が書かれた細長い木の板だ。いま、ドイツなど外国産がほとんどだという。なぜなのか。
古代ローマ人が「黒い森」と呼んだドイツ南部のシュバルツバルト地域。木々がうっそうと連なる、のどかな山あいの製材所「エシュテル」の工場に、厚さ1センチ、幅10センチ、長さ1メートルほどに切られた木の板が天井近くまで積み上がっていた。
「ここにあるのはすべて日本向け。12年ほど前、日本人が買い付けに来てから作り始めました」と社長のマヌエル・エシュテルさんは説明する。板の素材は、トウヒと呼ばれるドイツでポピュラーな針葉樹だ。直径50センチにもなる大木から切り出す。木肌が白くて美しく、木特有のにおいも少ない。棺おけやかまぼこの板としても引き合いがある。年間、卒塔婆約150万本分を輸出しているという。
全国有数の卒塔婆の産地、東京都日の出町で年間200万本以上を生産する大手メーカー協和木工所の井上雅俊常務は「材料の8割は外国産です」と話す。ドイツなど欧州から輸入されている。同社の上海工場は中国産の似た木を使っているという。「もう日本の山からは、材料が出てこないんですよ」
日本は国土の7割を森林が占める世界有数の森林国。戦前から卒塔婆や棺おけなどに使われてきた木材は、モミだった。ドイツのトウヒと同じように白く、清浄なイメージが好まれた。しかし、森林ジャーナリストの田中淳夫さんによると、国内のモミはほかの種類に比べて量が少なく、市場にあまり出てこなくなったという。田中さんは「群生する木ではなく、植林するのも難しい。日本の森ではスギやヒノキが主役で、モミを人工的に育てるための技術もあまり研究されてこなかった」と解説する。
一方で、国産の卒塔婆を復活さ…