天皇陛下は1960年代の皇太子時代からタイを訪ね、プミポン前国王(左)と親交を深めた(タイ水産局提供)
天皇、皇后両陛下が28日からベトナムを訪れた後、3月5日にタイに立ち寄り、昨年10月に死去したプミポン前国王の弔問をする。天皇陛下はおよそ半世紀前、タイの食糧難を救おうと、前国王にティラピアの養殖を勧めた。その養殖が広がり、ティラピアはタイで最も愛される大衆魚となり、両国の「友好の証し」にもなっている。
特集:皇室とっておき
■甘辛いタレや香草で
バンコク有数の食品市場クロントイ。魚売り場は午後も客足が絶えない。「プラーニン(黒い魚)」と呼ばれる黒光りしたティラピアが店頭の半分以上を占める。1キロ近い大物は1匹60バーツ(約200円)。女性店主のドントゥリーさん(45)は「半日で500キロ売れる。休む時間がないよ」と笑った。
ティラピアは、魚食が盛んなタイで最も消費が多い淡水魚だ。定番は甘辛いタレや香草で味付けした姿揚げ。水産局によると、2014年の出荷量は約19万トンで20年前の約3倍となり、出荷額は年34億円を超えた。淡水魚の養殖は約40万人の雇用も生んでいる。
養殖の歴史は1960年代にさかのぼる。魚類学者でもある天皇陛下(当時は皇太子)が64年末にタイを訪れた際、農村の食糧難を救う手として、繁殖力の強いティラピアを勧めた。翌年、日本から贈られた50匹をプミポン前国王が宮殿の池で繁殖させた。1万匹まで増やし、水産試験場を通じて稚魚が各地に配られた。
養殖池は、国を縦断するチャオプラヤ川流域を中心に国内約28万カ所に広がった。総面積は東京ドーム1万個分を超える。最下流にある中部サムットプラカーン県には、国内最大の800軒の養殖農家が集まる。かつて米農家だったスリヤン・プルアンスィさん(55)は「10年前に養殖に切りかえ、年収が約15倍の360万円に増えた」と喜ぶ。米価の低迷と肥料高騰に悩む米農家が、水田を掘って池に変えている。
同県の水産試験場長ブラシャッ…
有料会員に登録すると全ての記事が読み放題です。
初月無料につき月初のお申し込みがお得
980円で月300本まで読めるシンプルコースはこちら