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「僕、髪を伸ばします」 校則に1人反発、孤独との戦い

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朝日新聞への投稿を受けて寄せられたはがきを手に話す杉江匡さん=愛知県常滑市(はがきの表面をぼかしています)


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男子生徒は全員、髪形は丸刈り。そんな校則があった愛知県常滑市立の中学校で1988年11月、「僕、髪を伸ばします」と宣言した生徒がいた。授業で学んだ憲法が「すべて国民は、個人として尊重される」と定めていたからだった。


特集:憲法を考える


宣言したのは、常滑市に住む杉江匡(きょう)さん(43)。宣言の1カ月前、名古屋弁護士会(当時)が県内の別の中学校に「丸刈り強制は人権を侵す」と勧告したことを報道で知った。丸刈り強制の校則は憲法とそぐわないんだ――と確信できた。


校内では教師の体罰も日常の光景だった。月に1度の頭髪検査で髪を引っ張られ、「痛いのは髪が伸びている証拠」と言われたこともあった。


「体罰を含め、『当たり前なんだ』と受け入れてきたことへの反発が爆発した」。卒業まであと約4カ月で担任に「髪を伸ばす」と直談判。「自分の意思かどうか」と聞かれ、「自分の意見です」と答えた。学校の変化を期待して、朝日新聞にも投書した。


読者からは励ましの手紙やはがきが寄せられたが、「当時は孤独で、すごいストレスだった」と振り返る。後に続く生徒はいなかった。学校も校則を変えず、杉江さんの卒業まで静観しただけだった。「『悪法も法』と言う人はいた。でも、正しいと感じたことは主張したほうがいい」。父の孝夫さん(72)は今もそう思っている。


杉江さんは埼玉県内の私立高校に進み、東京の音楽専門学校などを経て、家業の製陶所で働く。04年に結婚し、今では1児の父だ。


少年時代の「反発」から30年近い時間が過ぎた。「いま赤紙が来たら、大きな声で反発しますよ」と冗談交じりの口調で言う。


「自分が息苦しいときに、憲法から守られていると感じる。そのときじゃあ、(反発するのは)遅いのかもしれないけどね」


東京都立高校の約6割では、生徒が髪の毛を染めたりパーマをかけたりしていないかを見分けるため、「地毛証明書」を生徒の一部に提出させていることが明らかになった。


「先生がいかに生徒を管理するかしか考えておらず、昔から何も変わっていないように見える。寂しくなりますね。先生は生徒とお互いの意見を言い合い、もっとわかり合おうとすることが大事なのではないか」(後藤隆之)



〈憲法13条〉 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。



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