英当局が自爆テロの実行犯とみるサルマン・アベディ容疑者。写真の撮影時期や情報源は不明=AP
英中部マンチェスターのイベント会場で22人が死亡した自爆テロ事件で、実行犯とされるリビア系英国人、サルマン・アベディ容疑者(22)の友人らが、容疑者の危険性について治安当局に情報提供していたと、25日付英紙などが報じた。当局が対策を取らなかったために今回の事件が起きた、との指摘も出ている。
英紙デイリー・テレグラフは、「(容疑者が)自爆テロを賛美している」と友人が政府の反テロ通報窓口に連絡していたと報じた。こうした情報は、事件前の5年間で少なくとも5件あったという。
容疑者が最近まで家族と暮らしたマンチェスター南部で、容疑者を知る男性(20)が25日、朝日新聞の取材に応じた。約1年前に数年ぶりに会った際、昔はカジュアルな服装でいつも友達と一緒だった容疑者の変わりように驚いたという。「あごひげを伸ばし、信仰心が深まったんだなと思ったが、過激思想に染まっているとは思わなかった」。過激思想に傾倒した経緯は不明だが、ここ数年の間にイスラム教への信仰心を強めた可能性がある。
英スカイニュースは25日、容疑者が通っていたモスク(イスラム教礼拝所)関係者の話として「彼は激しやすい性格で、2カ月前にモスクへの立ち入りを禁じた」と報じた。
一方、リビア当局は24日、容疑者の父親ラマダン氏と弟のハシム氏を拘束した。リビア当局によると、ハシム氏は過激派組織「イスラム国」(IS)との接点が疑われており、今回のテロ計画を知っていた疑いがあるという。
英警察は25日、関係先の捜索でテロ事件に関連する「重要物が見つかった」と明らかにした。英紙インディペンデントは当局の情報として、爆発物の材料だったと報じている。
爆発の具体的な状況については、米当局が英当局から得た情報として、米メディアなどが報じた。
米ニューヨーク・タイムズ紙(電子版)によると、爆発物にはボルトや釘が仕込まれ、容疑者がリュックサックかベストに隠して現場に持ち込んだ。容疑者は起爆装置とみられる物を左手に持ち、会場の出口付近のロビーで自爆した可能性が高いことも分かった。犠牲者は容疑者の周囲に円状に倒れていたという。
一方、こうした情報が米当局を通じて同紙に流出したことについて、メイ英首相は、25日に始まった北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の場で「秘密の保持について、トランプ米大統領にはっきりさせる」と述べた。トランプ氏は声明で「機微に触れる情報の漏洩(ろうえい)は、安全保障の脅威だ。司法省などに要請し、この件を検証する。犯人は法で裁かれるべきだ。米英の特別な関係ほど重要なものはない」と述べた。
英国内では25日午前11時(日本時間午後7時)、テロの犠牲者を追悼する黙禱(もくとう)があった。エリザベス女王は同日、被害者が入院しているマンチェスター市内の病院を訪問した。(マンチェスター=渡辺志帆、ロンドン=河原田慎一)