闇に包まれていた過激派組織「イスラム国」(IS)の実態が、次第に明らかになりつつある。イラク北部モスルでは、政府軍などによる奪還作戦の進行に伴い、武器製造工場などが相次いで見つかっている。処刑場や宗教警察を使った恐怖統治についても、住民が重い口を開きだした。
〈取材の経緯〉朝日新聞記者は取材ビザを取得してイラクに入国した。イラク国内の移動に際しては、ISの支配地域は避け、安全を確保した。治安部隊の同行取材では、戦闘の前線に近いことから、安全確保のため行動は制限されたが、住民らへの取材は自由にできた。検閲は受けていない。
■前線に黒煙、響く砲撃音
朝日新聞記者は24日、イラク政府の治安部隊に同行し、モスル西部に入った。工場や倉庫が10棟ほど立ち並ぶ一角に案内されると、数キロ先の前線に黒煙が上がるのが見えた。抵抗を続けるISを狙って、イラク軍が迫撃砲弾を撃ち込んだのだ。砲撃音も時折響く。
建物の一つに入ると、ISの武器製造工場だった。部隊責任者は「住民からの情報に基づき捜索した結果、15分前に見つかった」と説明した。かつては菓子製造工場だったという。
屋内には自動車のドアやバンパーが所々に放置されていた。部品に記された文字などから、日本製のピックアップトラックとみられる。袋詰めにされた粉も山積みになっていた。
責任者によると、粉は爆発物の原材料で、ISは解体したドアなどに爆発物を詰め込み、組み立て直していたという。ここは、自動車爆弾の製造拠点だったとみられる。ISは自動車爆弾を使った自爆テロを頻繁に起こしている。
「イラク政府」の文字が記されたナンバープレートもあった。ISの前身組織が2014年6月にモスルを制圧した際、奪った政府車両のものだった可能性が高い。ISは自動車爆弾を使った自爆テロを行うにあたり、「政府」ナンバーで周囲を油断させていたとみられる。
自動車爆弾の製造拠点の隣の建物も、武器の製造工場で、数百の迫撃砲弾が山積みにされていた。砲弾は長さ50センチ、直径10センチほど。火薬は装塡(そうてん)されておらず、完成手前の状態だった。(モスル=小森保良、翁長忠雄)