自宅で創作に熱中する井上耕児朗さん(井上貴香さん提供)
井上耕児朗さん(15)にとってザ・ビートルズは、外の世界に自己表現する「窓」のような存在だ。3歳で自閉症と診断され、他者との自由な会話は得意ではない。だがビートルズに出会ってから、夢中になって4人を描き続けてきた。展示会への出品だけでなく、横浜市内の自宅の壁は、自作のビートルズの絵でいっぱいだ。
「体中で感じたままを表現できる感性を持つ子。一度しかない人生、好きなことをやらせたい」と母親の貴香(きこ)さん(45)。
川崎市の養護学校高等部1年。月に一度、障害のある子を対象にした金子光史さんの絵画教室に通う。藤沢市内で毎年開かれる「障害のある人もない人も」がテーマのアート展にも出品する。
小さい頃から絵が大好き。両親と兄がビートルズ・ファンで、楽曲をよく耳にしていた。2011年放送のテレビの特集番組を見たのを機に繰り返し楽曲を聞き、映像を録画して見るようになり、猛然と描き始めたという。
ビートルズのカレンダーなどの写真を見ながら走らせる「弾むような、生き生きした線」が特徴。同じ写真を嫌うため、母や大学生の兄(18)が古書店やネットで珍しい写真を探す。
13年11月、元メンバーのポール・マッカートニー来日時は、家族4人で東京ドーム公演を見に行った。最後列の席だったが「ノリノリで何度も跳びはね、本人には忘れられない経験だったみたい」と貴香さん。帰宅後、記念に買ったポールのポスターを見てすぐに描き上げた。
創作は自宅玄関や階段の壁など…