全競技終了後の引退式典で、観客とハイタッチするボルト(右)=池田良撮影
現役を引退したウサイン・ボルト(ジャマイカ)は、なぜ人類最速の地位を10年も保てたのか。神経、脳科学を専門とする動作科学研究者(博士)で、男子100メートルの日本記録を持つ伊東浩司・日本陸連強化委員長を現役時代に指導したトレーニング研究施設「ワールドウィング」の小山裕史(やすし)代表に、解説してもらった。
ボルト「泣きそう」、最後にあのポーズ 引退式典で感慨
【特集】ウサイン・ボルト
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ボルト選手を初めて見たのは2007年。大阪での世界選手権を見据え、ジャマイカ代表がワールドウィングのある鳥取市で事前合宿を開いたときです。
当時は200メートルが中心の選手でしたが、ゆったりとした走りが印象的でした。高身長ながら力みなく体全体を使い、約2メートル70という大きなストライド。肩の上下動が大きいという意見もありますが、肩を動かすことで、速い筋肉の活動と緩む時間をつくっていると感じました。
驚いたのが、伊東浩司選手や、大リーグのイチロー選手(現マーリンズ)と取り組んでいた走り、特に足の外側着地に始まるフラット着地を体現していたことです。薬指から地面に降りていて、フラット(土踏まず部分全体)に移行し、足にかかる圧力が親指を強く使わないで母指球(親指の付け根部分)に抜け、これにより、重心を保つ骨盤が前に出て、足が自然に前に出やすくなる。わたし自身、1990年代から提唱し本も出版しましたが、日本ではブレーキ作動を起こす親指着地がまだ主流でした。
骨盤の使い方のうまさも持ち合…