頭に紙手をかぶって境内を走る「ゴーサマ」(左)=美咲町両山寺
神が乗り移った男性「ゴーサマ」が闇夜の中、境内を走り回る奇祭「二上山護法祭(ふたがみさんごほうさい)」が14日夜から15日未明にかけ、岡山県美咲町の両山寺であった。「ゴーサマ」の邪魔をして捕まると「3年以内に死ぬ」と伝えられており、集まった約450人の中には悲鳴を上げて逃げ回る人もいた。
護法祭は、県の重要無形民俗文化財に指定されている。寺の言い伝えでは鎌倉時代の1275年、住職がお告げを受けて始まった。「護法善神」という神様が鎮守する土地を見回るため、人に乗り移るとされる。五穀豊穣(ほうじょう)や天下太平を祈るために祭りは続けられ、町によると、今年で742回目だという。
神が乗り移る男性「護法実(ごほうざね)」は半紙で作られた帽子「紙手(しで)」をかぶって駆け回る「お遊び」をする。2015年から護法実を務めるのは、IT関連の仕事をしている白川晃太郎さん(44)。今回、祭り当日までの1週間、外部との接触を断ち、寺にこもって修行をした。「お遊び」の間は、護法善神の使いの鳥のように、手を羽ばたかせ、高く舞い上がる動作をする。
地元の人は、恐れつつも敬いの気持ちを持って、祭りそのものや護法実、護法善神を「ゴーサマ」と呼び、親しんできた。
寺の言い伝えで、走るゴーサマの邪魔をすると「3年以内に死ぬ」とされていることから、最近はスリルを求め、町外から祭りを見に来る若者も多い。ネット上で「リアル鬼ごっこ」などと書かれたこともある。
両山寺の井上観賢住職(38)によると、過去に祭りの際、若者がわざとゴーサマの邪魔をしたり、怒らせようとしたりしたこともあった。住職は「言い伝えは『ばちが当たるようなことをしてはいけない』ということ。捕まって実際に亡くなった人もいますが、普通に見ている人は追いかけて来ないので、鬼ごっこではありません」と話す。
祭りの後、ゴーサマを務めた白川さんは朝日新聞の取材に「祭りの最中、汗をかいたり息切れしたりはしなかった。終わった後は雑念が落ちてすっきりした気分。また明日から頑張ろうと思います」と語った。(小川奈々)
■ゴーサマの「お遊び」、記者もドキリ
強い雨が降りつける中、山道を車で登った先に両山寺はあった。オレンジ色の照明と霧に包まれ、「神」を迎えるにふさわしい雰囲気を醸し出していた。
14日午後9時半、合図のホラ…