九回裏の攻撃に選手を送り出す秀岳館の鍛治舎監督=細川卓撮影
(17日、高校野球 広陵6―1秀岳館)
最新ニュースは「バーチャル高校野球」
高校野球の動画ページ
みんなで決める「甲子園ベストゲーム47」
めざしていた日本一は達成できなかった。春夏4季連続出場で、優勝候補の一角にも挙げられた秀岳館(熊本)は17日、広陵(広島)に敗れた。選手たちは、今大会で退任する鍛治舎(かじしゃ)巧監督(66)と、けがで出られなかったチームメートへの思いを胸に全力で戦った。
満員の4万7千人がわいた。二回。中前安打で広陵の二塁走者が三塁を蹴る。秀岳館の中堅手、竹輪(たけわ)涼介君(3年)が投げた球は、ワンバウンドして捕手のミットへ。タッチアウト。失点を防いだ。
竹輪君は本来、二塁手。だが正中堅手だった藤本舜君(同)が、夏の熊本大会の約1カ月前に左ひざを骨折し、出場できなくなった。竹輪君は17日、藤本君のグラブを使った。「手になじんで使いやすかった。おかげで、いいプレーができた」
ほかにも帽子は主将の広部就平君(同)、打撃用手袋は一塁手の木本凌雅君(同)が使った。甲子園で8強に進めば、秋の国体で一緒に野球ができる可能性が膨らむ。「あいつともう一度野球がしたい」。チームはその思いで結束した。
もう一つ、選手たちには誓っていることがあった。「最後に日本一にしてあげたい」。甲子園入り後、今大会限りでの退任を発表した鍛治舎監督の花道を飾ることだ。
高校野球の解説者としても知られた鍛治舎監督。現役時代は、社会人野球の松下電器(現パナソニック)で活躍し、その後、中学硬式野球チーム「オール枚方(ひらかた)ボーイズ」の監督として、たびたび全国優勝した。今回ベンチ入りしたうち4人がそのときの教え子だ。
秀岳館の監督に就任すると、監督やコーチの助言がなくても、選手自らが考えて試合を組み立てるチーム作りに取り組んできた。甲子園では春夏3季連続で4強入り。全国に秀岳館の名を知らしめた。
この日は、川端健斗君(同)と田浦文丸(ふみまる)君(同)のWエースがよく投げたが、それぞれ失点。今春の選抜後、鍛えてきた打線のつながりも分断された。試合後、川端君は涙声で「監督は自分を成長させてくれた。監督と日本一になれなかったのが悔しい」と話した。
熊本勢初の優勝という夢は果たせなかったが、鍛治舎監督は「甲子園は夢のような時間、場所だった。選手に拍手を送ってやりたい」と笑顔で語った。(沢田紫門)