報道陣の質問に答える自民党の安倍晋三総裁(左)。右は希望の党の小池百合子代表=8日午後3時、東京都千代田区の日本記者クラブ、飯塚晋一撮影
安倍晋三首相は8日の日本記者クラブ主催の党首討論会で、自ら「国難突破解散」と名付けた今回の衆院選で、北朝鮮の脅威を訴えていく姿勢を強調した。菅義偉官房長官は同日、北朝鮮対応に最前線であたる防衛省・自衛隊を視察。政権の強みを最大限生かして北朝鮮対応を選挙戦に利用するかのような姿勢に、現場からは疑問の声もあがっている。
特集:2017衆院選
首相は党首討論会で北朝鮮への圧力の有効性を問われ、「核保有国が日本という非核保有国を脅したのは初めてだ。十分に国難だと思う」と指摘。圧力路線を堅持していく立場を強調した。
一方、菅氏は官房長官として初めて、東京・市谷の防衛省を訪問。ミサイルを迎撃するため展開中の地対空誘導パトリオット3(PAC3)を視察し、隊員らに「北朝鮮の核・ミサイルは戦後最大の脅威だ」と訴えた。同省幹部は「政府の備えが万全とのアピールだ」と受け止めた。
10日の公示を前に、政権幹部の街頭演説も、「北朝鮮の脅威」一色だ。
小野寺五典防衛相は6日、東京5区から立候補予定の若宮健嗣・前防衛副大臣の応援演説で、北朝鮮の核開発を「広島の10倍の原爆がすでに実験レベルで完成している」「もし東京を襲ったら、おそらく広島・長崎の比ではない」と強調した。
ただ、こうした前のめりな姿勢が、現場に負担を与えかねない。安倍首相は9月30日夕、海上自衛隊舞鶴基地を訪ね、北朝鮮の弾道ミサイル警戒にあたるイージス艦「みょうこう」の乗組員らを激励した。みょうこうは約3週間にわたる日本海での警戒監視の任務を終えて、配備先の同基地にこの日早朝に戻ったばかり。数日間の休養のあと、再び出港し日本海で任務につく予定だった。
防衛省関係者によると、首相官邸側から急きょ首相視察の連絡があり、みょうこうの乗組員だけでなく、警備も含めて同基地の多くの隊員が受け入れ準備にあたったという。同省幹部は「長期間、洋上で緊張の続く激務を終えてようやく母港に帰ってきた日。早く帰宅させてやりたいところが、首相が基地に来る夕方まで待機していた隊員もいた」と指摘する。
ある政府関係者はこう懸念する。「北朝鮮の脅威を前面に出せば、対応にあたる政府・与党に有利なのは明らかだ。政権交代しにくい世論形成につながりかねない」(相原亮、土居貴輝、岡村夏樹)