木製バットへの対応――。高校野球から大学、プロなどに進んだ選手がぶつかる大きな壁だ。金属製バットはよく飛ぶが、将来的に選手が木製との感覚の違いに苦労するという側面は否定できない。米国のアマチュアは日本と違い、「飛ばない金属製バット」を使うという。どれほど違うのか。大阪の中学生チームがこのバットを使って行った試合を取材した。
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外野の頭を越えたのは1度だけ
「ガキッ」。詰まったような鈍い音で、放たれた打球にも力がない。ぼてぼての内野ゴロ。こんな打球が何度転がっただろうか。
10月14日、堺市のグラウンド。中学硬式の堺ビッグボーイズ(BB)と南大阪ベースボールクラブの試合でこのバットが使われた。DeNAの筒香らが輩出した堺BBが主催するリーグ戦。2年生同士、3年生同士が対戦した。
長さも重さも日本のバットとあまり変わらないが、明らかに打球が飛ばない。芯を外せば、もちろん力のないゴロや飛球だし、芯に当たってもしっかり振り切らなければ強い打球は飛ばない。2年生同士の対戦では、打球が外野手の頭を越えたのは一度だけ。試合が進むにつれ、外野手の守備位置は徐々に前になった。
堺BBの2年生チームの主将、山元翔太君は「日本の金属だと詰まったりしても飛ぶんですけど、このバットは引きつけて打たないと飛ばない」。3年生チームの主将、向山晴稀君も「とらえているつもりでも全然飛ばない。いつもなら芯じゃなくても飛んでいくのに」と感じた。
実際にこの2試合のスコアは3―0と2―0。通常のバットを使ったこれまでの試合の大半は、勝利チームが5~10点取っていることを考えると、いかにロースコアだったかが分かる。
試合を企画した堺BB代表の瀬野竜之介さんが試合の意図を語る。
「飛ばないでしょう? 日本の金属バットは性能の良さがゆえに、どこに当たっても飛ぶ。でも、それで果たして正しい打撃技術が身につくのかなと。今回使ったバットだと、体に近いところでボールをとらえて、振り切る習慣がないと飛んでいかない」。それは、木製バットに近い感覚なのだという。
堺BBでは2年ほど前から、瀬野さんが米国の知人を通じてこのバットを購入し、練習で使う。OBの筒香からも、プロ入り後、木製バットへの対応に苦しんだ経験を聞かされた瀬野さんは「1、2年生は打球が全然飛ばないから面白くないかもしれない。でも、正しい技術を身につける過程だと思えば」と根気強く見守っている。
肩やひじ守るにもつながる
米国のアマチュア球界では、2011年から反発係数を抑えたバットの使用が義務づけられている。選手の筋力向上が進み、打球の速度が上がりすぎてライナーが投手を直撃するなど、事故が相次いだからだ。
選手のパワーアップという意味では、日本も同じ。本塁打が増える一方、投手はまともにストライクゾーンで勝負できず、球数が増え、変化球でかわすような投球が多くなる。
「このバットを日本でも導入できれば、結果的に投手の肩やひじを守ることにもつながるのでは」と瀬野さんは話す。
歴史を振り返れば、日本の高校野球で金属製バットが導入されたのは1974年。前年の73年に起きた石油危機で物価は高騰。国民生活に深刻な影響を与える中、「折れる木のバットは、モノ不足の時代にそぐわない」という声があがったからだった。
木材保護の観点からも、再び木製に戻すというのは現実的ではない。だが、性能が良すぎる金属バットを使うことは、選手の成長を考えるといいことなのか。
木製バットで行われた今夏のU18アジア選手権では高校日本代表は思うように点が取れず、3位に終わった。永田裕治監督は木製への対応を「永遠の課題」とも言った。
同じ野球で、打ち方が違うというのも不思議な話だが、実際に起こっている課題でもある。長い目で見た選手の技術向上という観点で言うと、この「飛ばないバット」は日本の高校野球にとっても一つのヒントになるのではないか。(山口史朗)