高校野球の春季近畿地区大会で、昨夏全国8強の近江(滋賀)が、16年ぶりの決勝進出を決めた。1日、奈良・佐藤薬品スタジアムで行われた準決勝で、主軸に逆転3ランが飛び出し、智弁学園(奈良)に3―2でサヨナラ勝ち。試合前の「小さな勝負」が伏線となって、劇的な勝利を呼び込んだ。
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0―2で迎えた九回裏の近江の攻撃。それまで重苦しかったベンチの空気が一変した。
「サヨナラ、あるぞ」
選手たちがそう感じた理由は、先攻と後攻を決める試合前の「じゃんけん」だ。
守備からリズムをつくるのが身上の近江は、後攻を取りたい。だが、主将の有馬諒(3年)は、昨秋の公式戦のじゃんけんで3戦全敗。すべて後攻を取られ、選抜出場も逃した。
ところが、この日は勝って、狙い通り後攻を選ぶことに成功した。試合は我慢が続く展開となったが、しぶとい守りで僅差(きんさ)で耐え、「最後は、『今日はいけるぞ』という雰囲気になった」という。
九回は先頭が二塁打で出塁し、次打者が四球を選んで無死一、二塁に。続く近江の3番住谷湧也(同)が、内角の変化球を振り抜くと、打球は右翼席に吸い込まれた。もくろみが最高の形になった近江の選手は、まるで優勝したかのように盛り上がった。
「じゃんけんに勝ててよかった」と有馬。多賀章人監督も「有馬が後攻を取ってきて、ベンチも盛り上がっていた。苦しい試合だったが、こういう展開で勝ててよかった」と、ほっとした表情を見せた。
監督が胸をなで下ろしたのには、わけがある。「あれから、近江はサヨナラの代名詞みたいになっちゃっていた」からだ。
13度目の出場を果たした昨夏の全国選手権。金足農(秋田)に敗れた準々決勝のことだ。1点リードで迎えた九回裏に、無死満塁から2点スクイズを決められ、サヨナラ負けした。秋は近畿地区大会の1回戦で終盤に逆転負けし、選抜出場がかなわなかった。チームが最も欲していた、終盤で試合をひっくり返した経験は、夏に向けての大きな糧となる。(高岡佐也子)