パロマ瑞穂野球場に来ると、ネット裏で瀧正男さん(故人)の話を聞けるのがうれしかった。古い記者は吉田正男さんに会えるのが楽しかったという。吉田さんは戦前に中京商で3連覇を達成した大エース。瀧さんは中京商の選手、指導者として甲子園で優勝した偉人だ。
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中京大中京の前監督、大藤敏行さん(57)もネット裏で愛知の高校野球を見守る存在になるのかな、と感じていた。だから「実は享栄で勤務することになった」と聞いた時は戸惑いを覚えた。東邦、愛工大名電も含めて愛知の「私学4強」と呼ばれ、しのぎを削ってきた。夏は1995年を最後に甲子園から遠ざかるライバル校の柴垣旭延・前監督(77)から、後任を託されたというのだ。
そして、享栄・大藤監督の初めての夏が、その瑞穂野球場でスタートした。
選手を鼓舞しながらテンポ良くノックを打つ姿は、ユニホームが変わっても同じだ。「あかん。久しぶりで緊張してきた」と笑ったが、中京大中京を率いていた2010年以来となる夏の愛知大会初戦を、10―0のコールド勝利で飾った。「80点ぐらいかな。子どもらと一緒にベンチで戦うのは、やっぱり楽しいね」
昭和に6度全国制覇した中京商が、平成に入って中京大中京になり、大藤監督のもと7度目の優勝を果たしたのは09年だった。あれから10年。ライバル校で勝利の校歌を聞く姿もまた、令和の新時代を感じさせた。(編集委員・安藤嘉浩)