全国の魚介や青果を扱う豊洲市場(東京都江東区)は、10月11日の開場から1カ月が経った。築地市場(中央区)から移ってきた飲食店には連日多くの客が訪れている。だがブームがいつまで続くのか、不安や課題は尽きない。
土曜日の10日昼、水産仲卸売場棟の飲食店ゾーンを訪れると、すしや海鮮丼の店に長い行列ができていた。大阪から友人3人と卒業旅行で来た大学4年の石川絢香さん(22)は、市場移転をニュースで知り、訪れたという。「築地市場のような情緒はないけど、新鮮でおいしい魚が食べられる。海鮮丼を食べたい」
豊洲市場で一般の人も利用できる店舗は、築地で親しまれた飲食や物販を中心に約100店。一般利用の初日だった10月13日には約4万人が訪れた。人気はすし屋に限らず、「印度カレー中栄」も連日大にぎわい。市場で働く人よりも、観光客の割合が増え、「うれしいことですね」と4代目の円地政広さん(55)。ただ、「観光客があまりに多いので、開業ブームじゃないか。いつまで続くか不安です」と話す。
あるすし屋の店長(45)は「外国人客の割合が減った」という。豊洲の集客拠点として期待されていた商業施設「千客万来施設」は今年8月からオープンの予定だったが、2023年の開業にずれ込む見通しだ。店長は「それまで踏ん張りたい」と語る。
管理施設棟に店を構える「とんかつ八千代」も、市場見学のついでに寄っていく人が多いという。社長の石塚英明さん(78)は「そのせいか、客単価が数百円落ちました」。
豊洲市場では、飲食店や物販店が三つの建物に分かれており、来場者から「分かりにくい」との声も。食品や調理器具などを販売するフロアにも観光客が集まるが、ある店の店長(35)は「珍しがって来る人が多く、大半が見て回るだけ」と話す。売り上げは想定を下回っているという。
水産の業者らが気にするのは、建物内の魚の臭いだ。飲食店のエリアは臭っていないが、魚介と業者が行き交うフロアについて、仲卸業者の50代の男性は「築地では、真夏でもこんなに臭いはしなかった」。80代の仲卸は「毎日ここで仕事をしていると分からないんだけど」と話しつつ、「お客さんから臭うって言われる」という。
築地は開口部が多く、外気が出入りしていたが、豊洲は温度や衛生環境を保つ閉鎖型の施設になった。さらに複数の業者によると、築地では店や通路を洗い流す際、濾過(ろか)・消毒した海水を安い料金で使っていたが、豊洲では築地より使用料が高くなるのではという懸念があり、使用を抑える傾向があるという。都は臭い対策として換気を強めたほか、「魚の内臓を排水溝にそのまま流さないように指導している」(担当者)という。
一方、旧築地市場は解体作業が進む。閉場前は、市場に生息する大量のネズミが拡散しないか、警戒されていた。都は9月から11月に粘着シート4万枚、殺鼠(さっそ)剤320キロを市場内に仕掛けるなど対策を実施。11月上旬までに計1586匹を捕まえた。担当者は「捕獲数は減少傾向で、手応えを感じている」と話す。
害虫駆除を手がけるシー・アイ・シー(東京)の小松謙之研究開発部長(55)は「対策によって押さえ込みにほぼ成功したとみていいのでは」としたうえで、「ネズミの中には殺鼠剤の効かない『スーパーラット』もいるので、今後の分析が必要」と指摘する。(西村奈緒美、抜井規泰)