1964年東京五輪のマラソンで銅メダルを獲得しながら、その後、故障で走れなくなり自ら命を絶った円谷幸吉と、ライバルであり、良き友人だった君原健二(77)。2人の物語を舞台化した「光より前に~夜明けの走者たち~」(谷賢一の作、演出)が紀伊国屋ホール(東京都新宿区)で上演されている。箱根駅伝に出場した経験を持つ和田正人らが出演している。
物語は東京五輪で円谷が銅メダルを取り、日本中が沸き立ったところから始まる。円谷と畠野洋夫、君原と高橋進という選手とコーチとの関係も事実に基づいて描かれている。日大時代に箱根駅伝に出場した後、俳優に転じて、テレビドラマ「陸王」などの出演がある和田正人は円谷のコーチの畠野役。円谷は宮崎秋人、君原は木村了の若手が演じている。
婚約者や畠野と別れた円谷に、腰やアキレス腱(けん)のけがが追い打ちをかける。東京五輪後、引退を決意した君原だが、高橋に導かれ、競技会に戻ってくる。そして、円谷の死。「幸吉は、もうすっかり疲れ切ってしまって走れません」の遺書。君原は円谷のためにと、メキシコ五輪のマラソンを走り、銀メダルを獲得する。
舞台を手がけた谷は「2人の人生は対極にありながら相似形であり、しかし正反対の結末にたどりつく。マラソンランナーの話でありながら人間関係が主体になっている物語です。円谷さんの悲劇は繰り返されてはいけないことで、現代に正しく伝えたいと思い作品化しました」と語る。
円谷と同学年の君原は今も市民マラソンのゲストランナーとして引っ張りだこ。そして毎年、福島県須賀川市にある円谷の墓にお参りする。「円谷さんは戦友であり、永遠の友。彼のおかげで今の自分があります。私たちのことが舞台になると聞いた時は驚きました。とても光栄です」。君原は23日に舞台を鑑賞し、トークショーに登場する予定になっている。
舞台の特別監修を務めた青学大の原晋監督は「究極のスポーツであるマラソンを指導するには選手と真剣に向き合い、心の中にも踏み込まないとメダルは取れないと感じた。チャラチャラしている場合じゃない」と語っている。
東京公演は25日まで。ABCホールでの大阪公演は29日から12月2日まで。公演に関する問い合わせはワタナベエンターテインメント(03・5410・1885)。(敬称略)