高級地鶏「名古屋コーチン」の種鶏を供給する「愛知県畜産総合センター種鶏場」が、2022年度にも愛知県安城市から同県小牧市へ移転することになった。小牧は名古屋コーチン誕生の地として知られ、新しい施設で地鶏出荷羽数の全国トップ返り咲きを目指す。
種鶏場は名古屋コーチンの原種を管理し、交配させて種鶏を生産する。種鶏は公営や民営の孵化(ふか)場に出荷され、生まれたひなが養鶏場に行く。スーパーや飲食店で出される名古屋コーチンの肉や卵は、ほぼすべてが種鶏場の鶏にさかのぼる。
新設備、環境改善で増産目指す
名鉄新安城駅から約1・5キロ離れた種鶏場には木造鶏舎30棟があり、ほとんどが1970年代以前に建てられた。外気を取り込みやすい開放型で、温度管理が難しい。今夏は記録的な猛暑で一部の鶏が死んでしまい、職員が総出で屋根に水をかけるなどしたという。林知孝・種鶏場長は「雨漏りや機器の故障はしょっちゅう」といい、野生動物が鶏舎に入り込んで鳥インフルエンザが発生すれば、生産に大きな影響を及ぼす恐れがある。
種鶏場ができたのは戦前の38年。当時の安城は養鶏が盛んな地域で、地元首長や養鶏関係者の熱心な誘致活動で土地が無償で貸し出された。だが戦後はベッドタウン化が進み、ふんなどの悪臭対策の観点から飼育数を増やすのは難しいという。
小牧市は「名古屋コーチン発祥の地」をアピールしており、県は断熱や換気設備を備えて密閉性が高い種鶏場を整備することにした。総事業費は数十億円規模。飼育環境を改善して産卵率を上げ、増産を目指す。
「需要が多く生産量が足りない」
名古屋コーチン(肉用)の流通羽数は、リーマン・ショックなどの影響で2011年に84万羽に落ち込んだものの、昨年は101万羽に回復。外食チェーンが名古屋コーチンの親子丼を提供するようになるなど、気軽に食べられる機会が増えたことが背景にあるという。県は「潜在的な需要は現在の2倍はある」と見込む。
名古屋コーチンの生産者や流通業者などでつくる「名古屋コーチン協会」の会員数は、09年の発足時の100から311に増えた。「需要が多くて生産量が足りない」との声が寄せられているといい、協会は生産態勢の強化を県に要望していた。
全国のブランド地鶏で出荷羽数が最も多いのは、徳島県産の「阿波尾鶏(あわおどり)」。名古屋コーチンは1998年度に阿波尾鶏にトップの座を譲っており、新たな種鶏場で奪還を目指す。愛知県の担当者は「名古屋コーチンは、肉や卵の質を維持するため、どこよりも手間をかけている。名実ともに日本一を目指したい」と意気込む。(堀川勝元)
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《名古屋コーチン》正式名称は「名古屋種」。明治時代、旧尾張藩士が現在の愛知県小牧市で、尾張地方の地鶏と中国のバフコーチンを交配して作った。卵肉兼用種で、肉はしっかりとした弾力と豊かな風味がある。卵は濃厚でコクがあり、洋菓子の原料としても人気が高い。肥育には、ブロイラーの約3倍の120~150日かかる。県はブランド力を高めるため、県が供給する名古屋コーチンの基準を2008年に定めた。