1月にあった卓球の全日本選手権女子シングルスで、14歳の木原美悠(みゆう、エリートアカデミー)が最年少での決勝進出を果たした。18歳の伊藤美誠(スターツ)に敗れて優勝こそ逃したが、1ゲームを奪う大健闘。その才能はどうやって育まれたのか。
14歳の木原、史上最年少で決勝進出 全日本卓球選手権
兵庫県明石市内で卓球教室「ALL STAR」を開く父・博生(ひろき)さん(48)のもとを訪ねた。木原が小学校時代に基礎を作った教室で、子どもたちのラリーを博生さんがのんびり見ていた。5歳から高校生までの約30人が学ぶ。
「美悠に厳しくはしたけど、付きっきりで教えるというのは違いますね」と振り返った。博生さんは兵庫・滝川二高で全国高校総体出場の経験があるが、就職後は卓球から離れていた。30歳ごろに卓球教室のコーチを務めるようになり、8年前に「ALL STAR」を開いた。だから指導についての考え方は、映像やほかの指導者や選手の意見などを参考に自ら作り上げたものだという。
「まず卓球は下半身」。たとえ相手に台の左右に振られても、足を使って一番打ちやすい場所に動ければ、打ち返す時の選択肢が増える。簡単に追い詰められないのだ。「美悠にはマシンを使ってとにかく打たせた。1日1万球じゃきかないかな」。動体視力自体は「普通」(博生さん)という木原が、身長160センチ台半ばと大柄ながら軽やかなフットワークを見せるのは、そういう理由からだ。
さらにもう一つ、何より大事としているのが「自分で対応する力」だ。
「例えば、今回の女子シングルス決勝でも美悠は伊藤美誠さんを研究していた。しかし美誠さんはその上をいった」。コーチが立ち入るには限界があるというのが博生さんの考えだ。
「試合中に教えてその時はうまくいっても、将来を考えれば正解ではない。いかに自分で試合中に感じ取って修正できるかが、大事と思っている」と力説する。
そして木原自身が、あまり多くのアドバイスを欲しがらないタイプ。自分で考えることができるため、博生さんは「僕が言いたいことは我慢する。僕の考えと違っていても、うまくいけばそれでOK」と語る。
全国大会で何度も優勝した小学校時代も「言いたくなる気持ちを我慢して」試合中のベンチでのコーチ役には、9歳上で全国高校総体にも出場した姉の茉鈴(まりん)さん(23)に入ってもらった。
「それも美悠に伝えるのは技術でなく、精神面。姉が声をかけると落ち着く。普段の力を出させることに集中させた」と振り返った。
茉鈴さんに聞けば、木原はとにかく「マイペース」だという。小学校時代も、朝はギリギリまで寝ていて、何とか始業時間に間に合っていたと教えてくれた。試合中でもポーカーフェースで、ピンチになっても動じない。そんな性格の一端が見えた。
小学校卒業後、メダリストを養成する日本オリンピック委員会の「エリートアカデミー」に送り出した。「完全に親離れしていますよ」と博生さん。しかし、違う指導者のもとで、本来の良さが消える怖さはなかったか。
「うまく指導して頂いている。それに美悠は人がいったことをまずやる。その上で自分は『こうしたい』と言えるタイプ。これからもそうやっていくでしょうね」(有田憲一)