崎陽軒弁当調理部主任 中野真太郎さん(34) 横浜名物「シウマイ弁当」の生産は深夜から始まる。多くの勤め人が帰宅の途についた午後11時、横浜駅のすぐそばにある本社に出勤し、白衣に着替えて地下の工場に下りていく。 人気の無い静かな工場内を見てまわり、昨日と比べて何か異常はないか、食材や容器はそろっているか、急な欠勤者はいないかを確認する。その後、出勤してきた他の社員やパートタイマーの女性ら50人ほどとちょっとした雑談をするのを日課にしている。気持ちよく働いてもらうためだ。 機械化が進んでいない弁当工場は、食材の下ごしらえから、揚げたり炒めたりの加熱調理、最後の箱詰めまで手作業の積み重ねで成り立っている。 たとえば、箱詰め作業では約20人が一列に並んで、ごはんやシューマイ、タケノコの煮つけ、かまぼこなどの担当に分かれ、一箱分ずつ丁寧に取って入れていく。量の微調整が求められるため、機械を導入しにくいという。 工場は昼勤務と夜勤務の2交代制。本社工場では、それぞれの勤務で約8500個の「シウマイ弁当」をつくる。機械化されていないので生産のスピードはその日に担当する従業員の力量や体調で変わるが、出荷計画は毎日必ず守らねばならない。夜勤務の場合、午前5時から勤務が終わる午前8時まで1時間ごとに出荷数が設定されている。臨機応変な人の配置こそが、計画達成のカギになる。 それぞれの従業員の作業ごとの得手不得手を頭に入れたうえで、「箱詰めが遅れはじめた」と気づいた段階で作業の途中でも配置を切り替え、計画通りの出荷を守る。 「1時間半後に弁当50個を届けてほしい」。昨年秋、台風の接近で夜間作業が必要になった鉄道会社から夕方に急な注文が入った。この日の生産は終わっていたが、職場に残っていた同僚に声をかけ、急きょ生産ラインを動かし、的確な指示で間に合わせた。 現場では部下から「これ、どうしたらいいですか」と、よく声をかけられる。所属する弁当調理部の野村謙次部長(45)は「彼は本当に人柄がいい。だから、人がついてくる」と評する。 従業員どうしが話し込んで作業のスピードがやや落ちることがあるが、間違っても「早くやってもらえませんか」などとは言わない。配置をちょっと変えてみたり、別の仕事をやんわりお願いしたりと相手の気分を損ねずに作業のペースを上げてもらう。 かたや、細かな口出しをいやがる職人気質のベテラン社員もいる。「料理人」のプライドを尊重し、「お願いするときにも、自分の意見を押しつけることはしません」。 入社以来ずっと、弁当の生産現場で働く。下ごしらえから箱詰めまで完璧にこなせるようになり、32歳のときに異例の若さで主任に抜擢(ばってき)された。 多くの部下を抱え、現場を切り盛りする立場にあるが、偉ぶるそぶりはまったく見せない。「毎日どこかしら反省点があります」と、どこまでも謙虚だ。うまく組織をまわす「年下上司」が、1954年からハマっ子に愛される伝統の味を支えている。(土屋亮) 凄腕のひみつ① ひもかけしつつ目配り シウマイ弁当は手で箱にひもをかけてから出荷している。作業スペースは生産ラインを見渡せる位置にあり、忙しい時にはひもかけを手伝いながら全体を目配りする。1個あたり5、6秒で結ぶ早業だ。 凄腕のひみつ② 仕事の合間に消火訓練 工場内で火災が起きた時にいち早く消火する社内の自衛消防隊の責任者も務める。仕事の合間に同僚5人と消火訓練をする。「普段見ない側面が発見できて仕事にも役立ちます」。本社がある横浜市西区には、不特定多数の客を受け入れる百貨店やホテルが多く、各社の消防隊のレベルは高いというが、昨年の区の競技会では24チーム中3位になった。 中野真太郎(なかの・しんたろう)さん 神奈川県湯河原町生まれ。県内の工業高校を卒業後、2003年4月に崎陽軒に入社。入社以来、弁当調理部に勤務し、17年3月から主任(サブリーダー)を務める。 |
横浜名物 あの弁当の味守る 1日8500個、品質管理
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