陸上の日本選手権50キロ競歩は14日、今秋のドーハ世界選手権の代表選考会を兼ねて石川県輪島市の周回コースであり、20キロ競歩世界記録保持者の鈴木雄介(富士通)が3時間39分7秒の日本新記録で初優勝を飾った。
「完歩することが1番の目標でした」。レース後、鈴木は真顔で言った。過去にこの大会に2度出場したが、いずれも途中棄権。2015年に20キロで世界記録1時間16分36秒を樹立したが、その後は苦しみ続けた。メダルを期待された同年の世界選手権(北京)では途中棄権。16年リオデジャネイロ五輪の選考会は股関節痛で出場すらできなかった。その後もケガに悩まされた。
得意の20キロでなかなか結果を出せず、「可能性を広げるために」と取り組んだのが50キロだ。15年から本格的に練習を始め、冬場に35キロや40キロを歩いて体力強化に努めていた。
この日のレース。前半は3位集団にいたが、中間点を過ぎたあたりから上位の選手が相次いで失速し、35キロすぎにトップに立った。こうなると、20キロ競歩の世界記録保持者に火がつく。「スピードには自信がある」とペースを上げ、35~40キロを20分49秒で歩いて2位以下を突き放した。「棚ぼただけど、うれしいですね」
スピードの20キロ、スタミナの50キロと言われる競歩で、スピードを武器に50キロも制した31歳。富士通の同僚でもあり、50キロでリオ五輪銅メダルの荒井広宙は苦笑いを浮かべた。「常識が覆されましたね」。今大会は鈴木に4分近く遅れて4位に終わった。
今秋の世界選手権代表に内定したが、出場するかどうかは未定という。「深夜のレースなので調整が難しい。回避して東京五輪を目指して練習をするか、考えたい」。その東京五輪を、どちらの距離で狙うのか。「自分の中に50キロの才能があるのかもしれない。でも、20キロも好きだし。プライドもある。悩んでいます」。「完歩」した先で、大きな自信をつかんだ。(山口裕起)