米国は欧州連合(EU)を世界の食糧安全保障の改善努力を妨げていると非難した。EUが遺伝子組み換え作物(GMO)への扉を開く決定を行ったが、加盟国28カ国に対し、各国がそれを適用しない場合はそれを認めるという新たなルールも提案したからだ。
■「深刻な問題」、米農務長官が指摘
トム・ビルサック米農務長官はフィナンシャル・タイムズの取材に対し、この動きは環大西洋貿易投資協定(TTIP)の将来に関わる「深刻な問題」も提起したと述べた。
TTIPに反対するサインのプラカード。ドイツではデモが行われた(4月18日、ミュンヘン)=ロイター
「世界の食糧安全保障について真剣であるなら、生産性を最も持続可能な方法で最大限に高めることを可能にする科学についても極めて真剣に考慮すべきだ」と同氏は世界の食糧安全保障について協議する20カ国・地域(G20)農業大臣会合の前夜に語った。
また、「EUの提案は世界の食糧安全保障問題を克服するうえで深刻な障害となる可能性があり、我々の見解では科学と規則に基づいた(グローバル)システムを築くという考えと矛盾する」とも述べた。
近年、世界では栄養失調や食糧安全保障問題の克服が進んできたが、いまだに8億5000万人が栄養失調状態にある。また、世界の人口は増え続けており、気候変動による影響も浮上しているため、より多くの対策を実行していく必要があると同氏は話す。
さらに、その大部分を技術革新を通した農業の生産性改善で解決すべきだと述べる。専門家は2050年には世界人口が90億人になると見積もっており、その人口を賄うにはそれまでに生産量を60~70%高める必要があるという。
そのためには、今後35年間で過去1万年間で見られたのと同等レベルの革新を食糧生産において起こす必要があるとも付け加えた。
■GMOを厳しく制限してきたEU
EUは長年、米国よりもGMOに対して懐疑的で、取引を厳しく制限してきた。
欧州委員会は先月、EUが輸入できる、厳しく制限されているGMOのリストの拡大に関する決定を行ったが、各加盟国がそれを適用しない場合にはそれを認める提案を行った。EU内で流通を許可する遺伝子組み換え食物を19品目追加したものの、同制度の不適用を各国に認める提案は、フランスやドイツなどの国々のGMOに対する一般市民の反対を鎮めるための政治的なごまかしであるというのが大方の見方だ。