パッションフルーツの世話を続けている宮下洋三さん=上甑島
「Dr.コトー診療所」のモデルでも知られる、甑島(こしきしま)列島(鹿児島県薩摩川内市)。上甑島に着いたのは12月下旬の朝のことだ。川内港から高速船で50分。さらにコミュニティーバスで20分ほどの小島(おしま)地区は、住民152人のうち65歳以上の割合が53%を超える。
廃校になった小学校の横にビニールハウスがあった。「甑フルーツ園」の看板が目立つ。
「オフシーズンだから閑散としているけど、夏休みは観光客がたくさん来て大忙しでしたよ」と、ここで働く宮下洋三さん(67)。ハウスでは、南国の果実・パッションフルーツを栽培している。昨年春にジャムやソースなどの加工所、夏にはカフェもつくった。運営するのは地元の建設会社、宮内建設だ。神山幸紀(かみやまこうき)社長(66)は「フルーツと観光で雇用が守れればと思って投資したけど、どうなるかね」と笑う。
薩摩川内市の岩切秀雄市長が「観光元年」を宣言し、甑島観光への注力を掲げたのは、九州新幹線の全線開通を2年後に控えた2009年。約60年間で人口が5分の1以下、5千人弱になった甑島。若者は島外へ去り、産業の柱・水産は担い手不足で細り続けている。頼みの公共事業も、下甑島と中甑島を結ぶ藺牟田(いむた)瀬戸架橋(総工費約290億円)が19年度以降に完成すれば「仕事は一気に減るかもしれない」(地元の建設業者)。
観光の柱の一つが14年春の新高速船の就航だった。12年春には就航に先立ち、甑島側の寄港先を5港から2港に減らした。その後、本土側の港も串木野新港(いちき串木野市)から九州新幹線の川内駅に近い川内港に変更。寄港を減らし、船の運航時間を短縮。港の「選択と集中」で利便性を高めて観光客を増やし、人口減少で難しくなっていた航路維持にも役立てようという考えだ。手つかずの自然以外に目立った観光資源のない島だが、15年度に訪れた観光客は7万4千人。10年度の4万5千人から65%増えた。
■寄港先巡り激論
いいことばかりではない。下甑…