福島第一原発2号機の内部調査
炉心溶融(メルトダウン)した東京電力福島第一原発の2号機格納容器に、遠隔カメラやロボットが相次いで入った。溶けた核燃料のような塊、崩れ落ちた足場、毎時数百シーベルトに達する強烈な放射線量……。原発事故から6年で、ようやく見え始めた惨状が、廃炉の多難さを浮き彫りにしている。
廃炉技術の開発センター公開
「サソリ」ロボ立ち往生
非日常的な作業がルーティンに
今月上旬、廃炉に向けた作業が進む福島第一原発に記者が入った。
海沿いに原子炉建屋が並ぶ。水素爆発を起こした1号機は、吹き飛んだ建屋上部の鉄骨がむき出しだ。3号機は建屋を覆うカバーの設置工事が進むが、その隙間から水素爆発で崩れた建屋がのぞく。
それらに比べ、間に立つ2号機の外観は事故前とほとんど変わらない。だが、この2号機こそ、原発事故で最大の「危機」だった。
2011年3月15日未明。2号機の格納容器の圧力が設計上の上限の倍近くに達した。その後、圧力は急激に低下したが、なぜ爆発を免れたのか、いまだにはっきりしていない。
もし、爆発して核燃料がまき散らされていれば……。そんなことを思いながら2号機建屋の前に立った。二重扉のすぐ向こうに、格納容器がある。
「10メートル先は毎時8シーベルトの放射線量があります」
東電担当者が警告した。
廃炉で最大のハードルが、溶け落ちた核燃料の取り出しだ。原子炉のどこに、どれほどの燃料が溶け落ちているのか。まず、その把握が必要だ。
2号機では先月末から、カメラやロボットによる格納容器内の調査が進む。
建屋の外に貨物列車のコンテナのような建物があった。カメラなどを遠隔操作する「仮設本部」だ。狭い空間に折りたたみ式の机が置かれ、パソコンのモニターが並ぶ。壁は放射線を遮る鋼鉄製だ。
作業員の被曝(ひばく)を少なくするため、カメラやロボットの投入作業は短時間に終わらせなければならない。取材時に作業は行われていなかったが、仮設本部の簡素さが逆に、緊迫する状況を容易に想像させた。
一連の調査で、格納容器内の状況が分かってきた。
圧力容器の下にある作業用の足場には、溶け落ちた核燃料(デブリ)とみられる黒い塊が多数こびりついている。高温の核燃料の影響か、鉄製の足場はカメラで見える範囲ほぼすべてが崩落していた。
9日に投入されたロボットのカメラは、約2時間で視野の半分ほどが映らなくなった。放射線が強いと、電子部品はどんどん劣化して壊れていく。それに伴って現れる画像のノイズの量から、線量が推定できる。東電は最大で毎時650シーベルトの線量と推定。1分弱で致死量に達する値だ。
16日には前後に2台のカメラを搭載した調査ロボットが投入された。後部カメラを持ち上げる姿から通称「サソリ」。14年から開発が進められてきた調査の切り札だ。線量計も搭載しており実測できる。
サソリは格納容器の中心部まで進み、線量を計測したり、高温の核燃料によって溶かされて穴が開いた圧力容器の下部を撮影したりする計画だった。溶け落ちた核燃料が原子炉最下部に積もる様子も確認できるのではないか。そんな期待もあった。
だが、圧力容器に近づく前に、駆動部に堆積(たいせき)物が入り込むなどして動けなくなった。進めたのはわずか2メートルほど。そこで計測した線量は毎時210シーベルト。事故処理で実測された最大値だ。
東電の担当者は会見で「成果はあった。失敗ではない」と繰り返したが、関係者は落胆を隠せなかった。「サソリにはかなり期待していた。それだけにこの結果はショックだ」(富田洸平)
ようやく見えてきた2号機内部の状況。だが、一方で、謎も出てきた。
圧力容器から溶け落ちた核燃料…