29日、英下院での論議に臨むメイ首相=AP
英国が29日、欧州連合(EU)に対する正式な離脱通知に踏み切った。第2次大戦後の地域統合の枠組みを揺るがす事態だ。離脱交渉の優先順位や、英国がEUに支払う「手切れ金」の額などをめぐり、双方の隔たりは大きい。欧州の不安定な政治情勢と相まって、世界経済にも影響を与えかねない。
英首相、EU離脱を正式通知 2年後実現へ交渉難航か
「歴史的瞬間だ。引き返すことはない」
英国のメイ首相は29日午後0時半(日本時間午後8時半)、英下院で離脱通知を報告し、こう宣言した。
「この変化の時に、より強く、公正で結束した英国となってほしい」とも語り、離脱交渉で求める移民規制やEUとの自由貿易協定(FTA)締結など12項目の方針を改めて強調した。ただメイ氏の演説の間、EU離脱に反対するスコットランド民族党(SNP)の議員らから盛んなヤジが飛び、議長が注意する場面もあった。
一方、書簡を受け取ったEU首脳会議のトゥスク常任議長(大統領に相当)は、「英国の離脱は、(他の)EU27カ国をいっそう結束させるだろう」と交渉に向けた決意を述べた。同氏は2日以内にEU側の交渉方針を示す。4月29日に開催予定の英国を除く27カ国の首脳会合でこの方針が承認されれば、5月か6月にも具体的な交渉が始まる。
交渉の最大の焦点は、▽英国に住むEU加盟国民とEU域内に住む英国人の権利の保障▽英国が約束したEU予算の分担金や事業費の支払いの2点だ。請求額は600億ユーロ(約7兆2千億円)ともいわれる。
メイ氏は「(条件が)悪い協定なら、ない方がましだ」と述べるなど、離脱条件で折り合わなければ交渉決裂も辞さない強硬な姿勢を示す。だがEU側も、加盟各国の結束を固めるためにも交渉には強い態度で臨む方針だ。
英国経済は、EU各国からの移民の労働者が現場で支えてきた。決裂の場合、英国の方が影響は大きいとみられる。EU側は「決裂すれば空の便は大混乱し、(英仏海峡に面した港湾都市)ドーバーには船舶の長蛇の列ができ、原発燃料の供給も止まる」と警告している。(ブリュッセル=吉田美智子、ロンドン=渡辺志帆)