2分の1成人式に向けて子どもがつくった「自分史」と親への手紙(NPO法人はままつ子育てネットワークぴっぴ提供、名前などをぼかしています)
10歳になったことを祝う「2分の1成人式」が、小学校の行事として定着しつつあります。親への「感謝の言葉」の発表などが「感動する」と評価されているようです。一方で、場合によっては子どもにとってつらい体験になることもあり、配慮を求める声も出ています。
2分の1成人式は小学4年生が対象で、成人式と同じ1月などの3学期に開かれることが多い。子どもが親への感謝をつづった手紙や将来の夢を発表するのが主流で、親から子どもにメッセージを贈ることもある。
学習指導要領に明記された活動ではなく、あくまでも学校の自主的なイベントだが、実施する学校が全国的に急速に広がっている。浜松市は「自分を支えてくれる家族や先生に感謝しながらこれまでの自分を振り返り、将来に対して希望を持つため」として、2011年度から開催を推進。15年度には市内にある100校全てで開かれた。
02~04年度に小学4年の国語教科書の一部で取り上げられたり、今も「10年後の自分への手紙」などが記載されている教科書が多かったりするものの、国立教育政策研究所の渋谷一典調査官は「正直、なぜこんなに広がったのかよく分からない」と話す。
そもそもどういう経緯で始まったのだろうか。ある教育関係者によると、30年ほど前に一人の教員が「節目のお祝い」として開いたことが最初とされるという。そして、徐々に実施校が広まるにつれて「感謝」や「感動」の演出が強くなっていき、ここ10年ほどで教育関係の雑誌で取り上げられたり、インターネットで話題になったりしたことが導入拡大を後押ししたとみる。
保護者の評価は高い。「ベネッセ教育情報サイト」が12年、「2分の1成人式をしたことがある子を持つ保護者」を対象に実施したインターネット調査では、約1200回答のうち、2分の1成人式に「とても満足」「まあ満足」が合わせて約9割に上った。「夫婦で涙した」「家族の絆が強まった」といった感想が寄せられたという。
■「みんなが幸せな家族じゃないのに」
ただ、こうした行事を苦にする子どももいる。
東京都羽村市議の馳平耕三さん(55)は、15年9月の市議会で「複雑な家庭事情のある児童にも配慮したものにならないか」と質問した。その少し前に、公民館で地元の子どもたちの勉強を見ていた時、小5の女の子の話を聞いたのがきっかけだ。
親は離婚し、一緒に暮らす父親は子どもに無関心だった。そんな状態で学校から2分の1成人式のために親への感謝の作文を書くよう言われ、「ウソをつくのはいやだ」と感じた。それでも周囲の目を気にして自分を殺して書いたが、読んだ担任は「感謝の気持ちが足りない」。2度書き直しを指導された。
親から子どもへの文章も必要だったが、父親は書いてくれず、祖父に頼んだ。女の子は「何の感謝もしていないし、つらいことの方が多かった。みんなが幸せな家族じゃないのに」と、当時を思い出して泣いたという。
複雑な家庭の子どもに配慮しようとする教員もいるが、一度始めた行事を変えるのは大変なようだ。関東地方の公立小に勤めていた30代の男性は数年前、担任する4年生のクラスに父親を亡くした子どもがいた。ほかのクラスの担任や校長と話し合い、保護者は呼ばず、子どもが将来の夢などを考える授業に変えた。
ところが、保護者からは「上の子どもの時はやったのに、どうして今年はないのか」「楽しみにしていたのに」などの苦情が寄せられた。子どもからの文句はなかったという。
男性は「子どもにとっては『面倒くさい行事がなくなった』ぐらいなものだった。親を喜ばせるためのイベントで苦しむ子どもがいるくらいなら、やめてしまった方がいい」と話す。
愛知県内の元小学校長(58)は3年前、教員が保護者に「子どもへの手紙」を頼もうとしていると知り、「問題を抱えた家庭もある」と指摘した。これに対し、「去年もやった」と教員の一部から反対の声が上がったが、最終的に手紙はなくし、自分の夢などを発表する内容になった。「行事の中身を精査するよりも、前例を踏襲することが最優先になってしまっていた」と振り返る。(田中聡子)
■感動追求ありきに注意
〈内田良・名古屋大学大学院准教授(教育社会学)の話〉 様々な家庭環境の子どもが集まるのが学校教育の場だ。虐待を受けている子ども、親がいない子ども、離婚・再婚した親の子どもは珍しくない。親に感謝したくない、過去を振り返りたくないという子どももいるだろう。学校や保護者は「感動」を追いかけて、そうした子どもたちが見えなくなってしまってはだめだ。学校はつらい思いをする子どもが出ないように配慮する責任がある。2分の1成人式自体を否定するわけではない。将来の夢を考えたり、20歳の自分に手紙を書いたりと、自分の未来に向けた、子どもにとって役立つイベントにしてほしい。
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