明豊戦に臨む天理の碓井涼太君(左)と雅也君(同2人目)=20日、阪神甲子園球場、柴田悠貴撮影
(20日、高校野球 天理13―9明豊)
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マウンドの兄は黙々と投げた。ベンチの弟は誇らしげに見守った。20日の第2試合、天理(奈良)のエース碓井涼太君(3年)は粘り強い投球で明豊(大分)を八回まで3点に抑えた。降板後に追い上げられたが、13―9で準決勝に進んだ。
連続本塁打などで6点差をつけた初回、碓井君は得意の変化球をはじき返されるなどして、4連打を浴びて2失点。三回までに計3点を失ったが、四回以降は得点を許さなかった。
五回終了後のグラウンド整備中、控え捕手の弟雅也君(2年)とキャッチボールをして肩を慣らした。「調子は悪くない。そのまま行ったらええんちゃう?」と声をかけられ、「わかってるわ」と返した。碓井君は2日前の3回戦で148球完投。下半身に疲れがあったが、投球姿勢を修正して立ち直った。
2人は大阪府門真市出身。小学生の頃から野球を始めた。「変化球を極めることにのめり込んだ」という兄に対し、弟は「野球を作っている気分になれる」と捕手を選んだ。2人のバッテリーは中学生でも続いた。「ちゃんと放れ」「お前がしっかり捕れ」。いつも言い合いになった。
そんな2人だったが、兄が天理に入学し、寮に入ってからは離ればなれになった。雅也君が天理の野球部を見に行くと、厳しい練習についていく兄の姿があった。「一緒に甲子園に出たい」と思った。
雅也君も1年後、天理に入学。2人の立場が変わった。兄は雅也君を「雅也」と変わらずに呼ぶが、雅也君は部活では「碓井さん」と呼ぶようになった。
それでも2人の信頼関係は変わらない。昨秋、兄は背番号1を付けられず、横手投げに変えた。冬場は2日に1回、100球投げる練習を続けた。寮に戻ると、兄は弟を投球練習に誘った。「雅也なら言いにくいことも正直に言ってくれる」。雅也君は、「脇が開いてる」「変化球の切れが悪い」と気付いたことを指摘した。
制球力と鋭い変化球を身につけ、兄はエース番号を背負った。
甲子園のマウンドは、「きれいで、楽しくてずっと投げ続けたい」と碓井君は言う。そのマウンドで碓井君は口を一文字に結び、淡々と投げ続けた。
試合後、雅也君は「こんな注目される場所でいい投球をする兄が誇らしい。連れてきてくれた碓井さんや3年生に感謝したい」と話した。兄は「弟には素直に感謝したい。手の届くところに優勝があるので、エースの責任を果たし、しっかりとつかみたい」と力を込めた。(石本登志男)