彦根東―花巻東 十回裏花巻東無死満塁、増居(左)は藤森にサヨナラの犠飛を打たれる=加藤諒撮影
(31日、選抜高校野球 花巻東1―0彦根東)
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固唾(かたず)をのむ観衆をよそに、彦根東の左腕増居は涼しい顔をしている。0―0の九回2死二、三塁。「ピンチは一番良い球で勝負する。迷いはなかった」
この日最速の140キロが右打者の外角いっぱいへ。被安打0のまま、27個目のアウトを14個目の三振で奪った瞬間、甲子園が、はじけるように沸いた。
「リリースの前で一度、ボールが消える」「スピンの量が多い」。花巻東の選手たちが言う。テイクバックの小さい独特のフォームから放たれる直球は、球速も120キロ台から140キロまで様々。「力の入れ具合を1球1球変える」という高度な技術だ。
加えて、打者の狙いを瞬時に見抜く冷静で的確な観察眼。一回の2番打者の時点で相手打線の直球狙いに気づき、すぐに変化球を増やして目先を変えた。
そして、「自分のスタイルは勝負どころでギアを上げること」。走者を出すと130キロ台後半の直球を連発するのだ。
無安打は序盤から頭にあった。だからこそ、「打たれた後をしっかり抑えようと意識していた」。
皮肉にも、その場面で唯一と言っていい「苦手」に出くわした。初安打を許した十回無死一塁。バントの構えをする代打の八幡に四球を与えてしまう。
八幡は身長159センチ。「増居は小柄な左打者が苦手なんです」とは捕手の高内。さらに安打を許し、最後は中犠飛で屈した。
涙はない。幻と消えたノーヒットノーランにも「最後に2本打たれた。相手の勝ちそのものです」。泣き言、言い訳は一切なし。スタンディングオベーションで迎えた真っ赤なアルプス席へ、静かに頭を下げた。(山口史朗)