肝臓がんの臨床試験で、がんに栄養を運ぶ血管をふさいで「兵糧攻め」にする治療法と、分子標的薬を組み合わせることで、従来を上回る治療効果があったと、近畿大の工藤正俊教授(消化器内科)らが20日、米国臨床腫瘍(しゅよう)学会で発表する。
国内では毎年約3万人が肝臓がんで亡くなっている。早期で見つかる人が多いが、大半がその後進行する。手術で切除できない中等度の病期になると、がんを兵糧攻めにする「肝動脈化学塞栓(そくせん)療法(TACE)」などが治療法となる。さらに進行すると、がん細胞などの特定の分子を狙い撃つ分子標的薬「ソラフェニブ」を使う。
TACEは効果的だがその後の再発が多い。ソラフェニブとの組み合わせで再発を抑えられるのではという仮説があったが、これまでの製薬会社などの臨床試験では確認できていなかった。
近畿大など全国33の医療機関は2010~17年、中等度の肝臓がん患者80人に、TACEとソラフェニブを組み合わせる治療を実施。その結果、がんが大きくならない期間が25・2カ月で、TACEのみの患者76人の13・5カ月の2倍近くに延びた。データはまだ出ていないが、生存期間を延ばす傾向もあるという。
工藤さんは「過去の臨床試験の詳しい分析から、試験の組み方を工夫したことがうまくいった要因」と指摘。この治療法が一部の肝臓がんの標準的な治療法になる可能性が高いとして、「海外の治療指針が変わる可能性もある。肝臓がんの患者さんに大きな朗報だ」と話している。(合田禄)