カフェの前に立つ大場さん=2018年3月31日午前10時55分
車1台がやっと通れるほどの道を抜けると、鉄骨むき出し、さびも目立つ平屋の小屋がたたずんでいた。かつては牛舎として使われた建物が、アンティークを集めたレトロな「秘境カフェ」としてよみがえり、SNSで話題になっている。
静岡県掛川市大野の「アンティーク・カフェ・ロード」。国道1号バイパス日坂インターチェンジから車で約10分だが、道のりは険しい。カフェへ続く山道が細く、2013年の開店から2年間で客の車が34回脱輪したという。あまりに多かったため、カフェが脱輪した車を引き揚げるための四輪駆動車を用意したが、今は使うことはない。「難しい道が話題になって、運転に自信のない人は来ないか、上手な人と一緒に来るようになった」と店主の大場サダオさん(60)。
車が転落したことがあるという小川沿いの小道を抜けると、「秘境カフェ」にたどり着く。中は薄暗く、高い天井にむき出しの赤い鉄骨やさびたトタン。「正確な広さはわからないが、乳牛46頭を飼育できる広さがある」
明治時代に作られた床屋の椅子や鏡台。理科準備室にあるような骨格の標本など、大場さんが集めた様々なアンティークが所狭しと並び、あちこちで猫がくつろぐ。
外では、マツダのキャロルやダイハツのフェローなど何十年も前に作られた車がずっとそこにあったように風景に溶け込んでいた。
「秘境感がすごい。ジブリの世界に来たみたい。途中の細い山道も秘境への入り口って感じで」。友人と2人で訪れていた掛川市の女性(33)は満足そうに話す。
大場さんは森町出身。30歳のころから写真スタジオを自営しながら、趣味でアンティークを集めていた。12年に、知人が牛舎として使っていた物置小屋の中のものを処分すると聞いた。掘り出し物がないか、見に来た時に直感した。森の中にたたずむ古い小屋。そばを流れる小川の音。「ここでコーヒーを飲めたら」。1年後、カフェを開業させた。
大場さんが「時間の経過が作りあげた芸術」と評する牛舎は、最低限の改修しかしていない。エサ場のタイルや牛1頭分の仕切りを示すコンクリート、水飲み場など牛舎の設備の一部は今も残る。
カフェ開業時から、集客のために心掛けていることは「絵になる空間を作る」こと。アンティークの種類や置き方など、徹底的にこだわった。その結果、異世界に来たようなカフェとして写真投稿アプリ「インスタグラム」などで注目を集めるようになり、県外からも多く客が訪れるようになったという。
大場さんは「ここは時間がゆっくり流れている。普段忙しい人もボーッと川を眺めてゆっくり過ごしてもらえれば」と話した。(堀之内健史)