ユニホームを脱いだ老将が監督の顔に戻った。7日の第3試合、近大付(南大阪)が前橋育英(群馬)と対戦した。元監督の豊田義夫さん(82)が甲子園で後輩にエールを送った。
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豊田さんは50年以上前に母校の近大付の監督に就き、約20年務めた。その後、近大泉州など近大系列校の監督を歴任し、今年7月、3年間務めた利根商(群馬)の監督を最後に勇退した。「選手との一番大事なコミュニケーション」とこだわりを持っていたノックが思うように打てなくなっていた。
「どうしてその程度の野球しかできないんや」。その厳しさから、愛称は「キンコー(近高)の鬼」。OBの松嶋剛さん(56)は「野球も、人としての礼儀も、厳しく教えてもらった」と振り返る。近大付では選抜大会に3度出場。だが、50年以上の指導歴で自身は「夏」に縁がなかった。「最後」と臨んだ今夏、利根商は群馬大会で2回戦敗退。「人生最後の夢」はかなわなかった。
群馬から奈良県の自宅に戻った7月末、教え子に誘われ、南大阪大会決勝を見に行き、母校の優勝を目前で見届けた。「ワンプレーに血が騒いだ」
全国大会開幕2日前には、近大付グラウンドで選手らと対面。「ほんまようやってくれた。100回大会で甲子園。こんなにめでたいことはない」。涙があふれ出た。
5日には甲子園で近大付の10年ぶりの入場行進をバックネット裏のラジオ解説席から見届けた。校名がアナウンスされ、実況者から水を向けられると、「選手に感謝したい。よく頑張ってくれたと思います」と涙声で語った。
この日の相手はくしくも群馬の代表。「お世話になった群馬の代表と母校が対戦するなんて。不思議な巡り合わせですね」と感慨深げに話す。四回に近大付が2点目を失うと、下唇をかんで悔しがった。「どうしても監督のような気持ちになる。まだ『鬼の血』が通っているのか……」と苦笑い。試合は0―2で惜敗したが、最後は「悔しいけど選手は善戦した。よくやったと『仏』の心で言いたい」とねぎらった。(坂東慎一郎、高橋大作)