衣笠さん、甲子園でヒットが打てました――。17日の3回戦、龍谷大平安(京都)は日大三(西東京)に敗れたが、2度追いつく粘りを見せた。主に三塁コーチャーを務める背番号13、生水(しょうず)義隼(あきと)(3年)は代打で同点適時打を放った。その一本には、偉大なOBへの思いが込められていた。
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生水の出番は1点を追う七回2死二塁だった。京都大会では1打数無安打。甲子園1回戦の鳥取城北戦では代打で三振に終わった。この日は日大三の左腕・河村の外角直球に絞ると、その球が来た。「監督に信頼して出してもらった。野球生活のどの一本よりうれしいヒットでした」。右前に運んだ今夏初安打が、一時同点に追いつくタイムリーになった。
龍谷大平安のOBといえば、プロ野球広島で数々の偉大な記録を残し、今年4月に71歳で亡くなった衣笠祥雄さんが挙がる。今の選手で、衣笠さんに会ったことがあるのは生水だけだという。
5年前、硬式の生駒ボーイズに所属していた中学1年の時に米国で開催されたカル・リプケン世界少年野球大会のメンバーに選ばれた。大会前に衣笠さんが激励に訪れ、その時にかけられた言葉を今でも覚えている。「素直な人間が野球人として伸びる。野球ができることに感謝しなさい」。衣笠さんは選手一人ひとりに声をかけてくれたという。
進学先に龍谷大平安を選んだのは、2014年の選抜大会で優勝した姿にあこがれて。「キャプテンの河合(泰聖)さんたちが格好良くて。僕もこの白いユニホームを着てみたいと」。衣笠さんの母校だと知ったのは入学してから。「びっくりして、縁を感じました」と振り返る。原田英彦監督の言葉にも衣笠さんと共通するものを感じた。
高校では壁にぶつかった。守備や小技を重視する野球についていけず、昨夏もベンチ外。新チームでは二塁のポジションを争ったが、次第に三塁コーチャーと伝令役が主な仕事になった。それでも代打に備え、毎日300回の素振りは欠かさなかった。
「やってきたことが結果になりました。ずっと苦しかったですけど、甲子園で一本打てて、いい高校生活だったと言えます。衣笠さんも見てくれていたと思います」。伝令役は明るい性格を買われてのもの。試合後は泣き崩れる選手たちの中で、涙は見せなかった。(伊藤雅哉)