(8日、高校野球京都大会 龍谷大平安7―0花園)
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京都大会2回戦。初戦を迎えた龍谷大平安の大月塁斗(3年)は、スタンドから念じていた。「いつも通りやれば大丈夫。やってやれ」。見つめるマウンドには、背番号11。「冬を越えて投手陣で一番伸びてきた」と、特に思い入れがある先発・橋本幸樹(3年)がいた。
大月の立場は、昨夏の新チーム始動時に原田英彦監督が新設した学生コーチ。投手として甲子園に立つことを夢見ていたが、立候補して、初代の投手コーチになった。監督から「本当にありがとう」と感謝され、ちょっと照れくさかった。
しかし、そこは100年以上の歴史を誇る伝統校。簡単ではない。ピリッとした練習の雰囲気作り、整備の行き届いたグラウンドの管理――。なかでも難しかったのは、監督が求める厳しい練習を仲間に課すことだった。うまいやり方が分からずに右往左往していた秋口、橋本がちょっとした「事件」を起こした。
橋本は監督からランメニューのノルマが課せられていた。制限タイムがもうけられたグラウンド30周。それが10日間続いた。タイムキーパーは、大月。最終日、監督から雷を落とされた。「こんなタイム、ありえへん」。橋本が周数をごまかしていた。ノルマは10日間プラスされた。
だまされても、大月は追加メニューに付き合った。橋本は思った。「こいつのために頑張ろう」
そして、大月の献身的な姿勢に応えてみせた。夏の初戦を任され、7回無失点。その好投ぶりに、大月も「100点とはいかないけど、90点はあげられます」と胸をなで下ろした。
大月の仕事は多い。投手全員の投球数を全て管理し、まめに声をかける。エースの野沢秀伍(3年)からも「お前の分までやるから、ガンガン指摘してくれ」と信頼を得た。自主練習では野手陣のために、打撃投手として腕を振る。2番の北村涼(3年)が練習試合でヒットを打つと、よく目が合った。そして、やってきたことが正しかったと、うなずきあう。そんなやりとりがうれしいという。
原田監督が学生コーチを作った意図は、こうだった。「毎年、夏前になると、メンバーを外れて気持ちの入らない選手が出てくる。“補欠”を作りたくなかったから責任を与えたんです」。大月の働きぶりは、指揮官の思惑を超えつつある。
今春の選抜大会は8強。大月は甲子園で投げるチームメートを見て、思った。「今でも試合に出たい気持ちはあります。でも、日本一の投手陣を作りたい気持ちの方が強くなりました」。元号がかわった夏も、仲間に思いを託して戦う。(小俣勇貴)