(31日、選抜高校野球 明豊1―0龍谷大平安)
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互いに無得点、無失策のまま投手戦が進む。七回1死一塁。龍谷大平安のエース・野沢秀伍が2番手としてマウンドへ向かった。
ここまでの2試合を完投し、わずか1失点。抜群の安定感を見せてきた左腕は、準々決勝も落ち着いていた。自信のある直球で相手の内角を突いていく。球速は130キロ前後でも、明豊の打線がとらえきれない球威があった。
おとなしそうな性格と見た目から、原田英彦監督から「おじいちゃん」と呼ばれる。そんな野沢を珍しく奮い立たせたのは、延長十一回にバックが初めて犯した失策だった。1死一、二塁からの遊ゴロで、二塁ベースに入った二塁手が送球を落球。併殺でチェンジとなるところが、1死満塁とサヨナラのピンチが広がった。
昨秋、京都3位から近畿王者まではい上がった平安。今年のチームでも、原田監督は伝統の堅守を大事にしてきた。
しかし、ある新聞の選抜出場校の特集記事の見出しに「龍谷大平安、守備に課題」というフレーズが載っていた。秋の公式戦10試合で14失策。その屈辱を忘れないために、記事を練習場のベンチ内に貼った。
冬に鍛えた守備は、甲子園で光った。1、2回戦と無失策。助けられてきたからこそ、野沢は、準々決勝で初めて生まれた味方のミスを帳消しにしたかった。1死満塁、自信のある直球で空振り三振を奪うと、珍しくほえた。
だが、その強気を貫けなかった。2死満塁で迎えた次打者・後藤のカウントは2―2に。押し出し四球の危険が迫る3ボールにはしたくない。「少し弱気になってしまった」。6球目。右打者への内角直球は、思い切り腕が振れない分、シュート回転して真ん中へ。快音が響き、白球が中越えに弾んだ。サヨナラ負け。野沢は、うなだれるように整列に加わった。
試合後のお立ち台。左腕は目線を落とし、小さな声で語った。「もっと直球で三振がとれる、完璧な投手になりたい」。夏こそ、仲間のミスを救ってみせる――。そんな決意が、淡々と紡ぐ言葉ににじんでいた。(小俣勇貴)
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●原田監督(龍) 「惜しかった。投手陣はよく投げてくれた。仕方ないです。夏へ向け、この経験をプラスにしないといけない」
●橋本(龍) 右腕は七回途中まで好投。「公式戦は最長3イニングだった。少し自信がつきました。夏は(エースの)野沢と一緒に投げ合えたら」