高校野球の京都大会で、大江(福知山市)は14年ぶりの勝利をめざす。2005年に16強入りして以来、勝ちがない。出場校中で最も勝ち星から遠ざかっている。ベンチ入りは助っ人2人も含め9人ちょうど。控え選手はいない。厳しい状況でも、3年の加藤前(ぜん)君(17)は「今年こそ勝つ」と元気だ。大江の選手だった6学年上の兄の思いも背負い、グラウンドに立つ。
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加藤君は、兄から京都大会で負けが続いていることは聞いていた。選手同士でもそんな話をする。だからこそ、自分の代で流れを変えたい。それを目標に練習を重ねてきた。
1月中旬、前監督で顧問の梅原寿夫(ひさお)教諭(54)は突然、告げた。「3人が辞めた。残った人数でがんばろう」。辞めたのは選手2人とマネジャー1人。この時点で選手は6人になってしまった。「勉強したいから」「やらされている感じで楽しくない」といった理由だった。
加藤君は「ほんまにやばいな」と感じた。メンバーが足りない。練習試合には引退した3年生にも来てもらった。
梅原さんは2月、加藤君に頼んだ。「主将やってくれんか」。部員が一気に辞めてショックを受け、同期が主将を降りて一選手に戻っていた。練習熱心さを買われての指名だった。
でも、みんなを引っ張るのは苦手。どちらかと言えばやりたくなかったが、好きな野球を続けるためならと覚悟した。「人数が少なくてもがんばれるならやりたい」。そう言ってくれる後輩に感謝した。
主将になりたてのころは苦労の連続。後輩に指示が出せず、声も小さい。性格の違う仲間をまとめていくのは難しい。元高校球児の父に相談すると、「主将らしくなんか一つでもがんばってみろ」と励まされた。
春の府大会の初戦。終盤で逆転され、加悦谷(かやだに)(与謝野町)に4―8で敗れた。それでも、ベンチから「野球を楽しんで!」と声をあげると、チームが活気づいてうれしかった。
助っ人を引き受けたのは、3年で一塁手の阪本一吹(いぶき)君(18)、2年で右翼手の林空君(16)。阪本君は中学で軟式野球をしていたが、高校ではアルバイトをするために野球からは離れていた。阪本君は昨秋の府大会前、加志村(かしむら)訓(さとし)監督(57)から「人が足りないから来てくれないか」と頼まれた。「そんなに困っているなら」と引き受けた。
林君は元部員。やめた3人のうちの1人だ。5月下旬、監督から「足りひんからやってくれへんやろか」と言われ、久々に体を動かしたいと思った。
「ずっと練習してきた部員たちでチームを組めたらいいんだけれど」と加藤君。でも、そんなことは言ってられない。試合ができるのが一番。仲間が戻ってきてくれてうれしかった。
6月29日、大会前の最後の練習試合。春に負けた加悦谷が相手だ。阪本君が都合で来られず、相手に1人借りて挑み2―0。久しぶりに勝ちを味わった。
初戦は7日、宇治市の太陽が丘球場で洛星(北区)と対戦する。スタンドで見つめる兄のため、そして自分たちのために、精いっぱい勝ちに行くつもりだ。(高井里佳子)