金足農(秋田)は18日、近江(滋賀)との準々決勝で、九回に2ランスクイズを決めてサヨナラ勝ち。1984年以来のベスト4入りを果たした。勝ち残った4強で唯一の公立校は、エース吉田輝星(こうせい)君(3年)を軸とした守りの野球で強豪相手に次々と勝利。体を反らしながら「全力で」校歌を歌い上げる姿も甲子園になじんできた。
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18日締め切り! 夏の甲子園、歴代最高の試合は? 投票ベストゲーム
150キロの速球を持つ吉田君はこの日も一人で投げきり、今大会4試合連続の完投勝利となった。そんな吉田君を援護する打線は、一戦ごとに「日替わりヒーロー」が現れている。
初戦の鹿児島実戦では、1番菅原天空(たく)君(3年)が先制の適時三塁打など2安打2打点の活躍。5―1で快勝し、続く大垣日大戦は同点の八回表、5番大友朝陽君(3年)の本塁打で勝ち越した。3回戦は2点リードされて迎えた八回裏、6番高橋佑輔君(3年)の逆転3ランで優勝候補・横浜を破った。
記録的な猛暑となった今夏、秋田大会から一度も選手交代せず、3年生9人で勝ち上がってきた。主将佐々木大夢君(3年)は「自分たちには我慢強さがある。雪国育ちじゃないと備わらないと思う」。前回4強入りした34年前は準決勝で桑田真澄や清原和博を擁するPL学園(大阪)に惜敗。「雑草軍団」の名が全国に知れ渡った。
18日の準々決勝で金足農は、近江の好左腕に攻め手を欠いた。それでも一塁側アルプス席だけでなく、球場に手拍子が響き渡った。これまで甲子園が味方して勝つことが多いと思っていた吉田君は「自分たちのペースだな」。
結末は突然やってきた。1点を追う九回裏、無死満塁の好機。今大会無安打の9番斎藤璃玖(りく)君(3年)が3球目、三塁側へスクイズした。送球の間に二塁走者の菊地彪吾(ひゅうご)君(3年)も本塁にかえり、勝負を決めた。菊地君は球審が両手を広げている姿を目にして、「今まで見たことない光景で興奮した」。
斎藤君はベンチで、吉田君から「お前が決めるんだぞ」と声をかけられ、「ここまで打ててないし、神様がチャンスをくれたんだな」と言って打席に向かっていた。この日、新たに生まれた「ヒーロー」は、紫の歓喜の輪に包まれた。(神野勇人)