甲子園観戦記 久米宏さん(司会者)
動画もニュースもたっぷり! バーチャル高校野球
球場で高校野球を見るのは初めてです。ちょっとこの景色には感動してしまう。金足農アルプスはお祭りのよう。東北の魂を背負ってきているように感じる。あ、金足農にはふりがながあった方がいいですよ。そう、金足農(かなあしのう)と。報道では、わかりやすさを大事にしましょう。
実は昔から高校野球には違和感を覚えることがありました。僕は団体行動が苦手で、同調圧力のようなものを感じていたのだと思います。丸刈りもそうですが、例えば応援。本当は参加したくない子もいるはずなのに、そんな声はあげにくいし、周りもその存在に気づいてあげようとしない。日本の学校教育には、多様性を軽んじる側面が少なからずありませんか。
1985年に始まったニュースステーションのキャスター時代、「生(なま)」の強さというものを実感しました。平日夜の大型報道番組という民放では新たな試みが、軌道に乗ったきっかけの一つにフィリピン革命の中継がありました。大統領がヘリで逃亡し、米国の国務長官が新政権を認める声明を出す。ドラマのような革命劇をリアルタイムに伝え、視聴率は跳ね上がった。
高校野球は筋書きがないドラマの最たるものでしょう。100回の決勝に東北の悲願と2度目の春夏連覇という史上初が二つもかかる。大阪桐蔭はやはり強い。1年前に一塁ベースを踏み損ねた中川君が主将になり優勝インタビューを受けている。これもドラマですね。こういう魅力はこれからも決して変わらない。
Nステでは人がやらないようなことをやろうと思っていた。番組スポンサーに圧力をかけた政治家を放送中に問いただしたこともあるし、後に秋元康さんに聞くところによると、選挙の開票速報でモニターが故障した時、「皆さん、直るまでしばらくNHKを見てください」と言ったらしい。固定観念にとらわれていては新しいことは出来ないと考えていました。
戦争という人災に中断されることなく次の200回を迎えて欲しいと思います。そのためには先入観にとらわれていてはダメです。今夏のような暑さが続くなら、現行の大会方式には無理が出てくるし、高校野球は甲子園でという固定観念を変えていく必要があるでしょう。日本社会と同じく、今後は多様性を認め合わないと成り立ちません。集団行動が苦手な人の存在にも目を向けるような高校野球であって欲しい。
金足農への拍手が大きい。いい光景ですね。200回へ向け、東北の夢は続きます。いい経験でした。高校野球にはまってしまいそうです。きっと101回大会も見ます。(構成・竹田竜世)
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くめ・ひろし 1944年、埼玉県出身。74歳。79年、TBSを退社し、フリーに。主な出演番組に「ザ・ベストテン」、「ぴったしカン・カン」など。現在は、TBSラジオ「久米宏 ラジオなんですけど」に出演中。