大阪・国立国際美術館で開催中の「プーシキン美術館展」(朝日新聞社など主催)で、来場者に一番好きな作品を選んでもらう「風景画総選挙」を実施したところ意外な結果が出た。1位は有名なモネの作品だったが、肉薄した2位は専門家もノーマークだったという作品。投票した人から「ハリー・ポッターみたい!」などと絶賛の声が寄せられたその作品とは?
一見、暗い絵が
会場には、ロシアの国立美術館のコレクションから、ルソー、ルノワール、セザンヌら近代フランスの巨匠らの風景画65点が並ぶ。
開幕から約1カ月間(7月21日~8月21日)の結果をまとめたところ、有効投票数は8249票。1位は、光きらめく水の庭の様子を描いたクロード・モネの「白い睡蓮(すいれん)」(1899年)で885票だった。
「モネの睡蓮」に21票差まで迫ったのは、エドゥアール=レオン・コルテス「夜のパリ」(1910年以前)で864票。注目作、アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」(1910年)の615票を引き離し、堂々の2位となった。夕闇迫るパリの大通り、ショーウィンドーの明かりが幻想的に彩る。暗めの色使いで、明るいトーンの絵が目立つ展覧会の中では異色。PRパンフレットやポスターにも使われておらず、新聞やテレビでの露出もほとんどない。
しかし、一票を投じた来場者からは、「ハリー・ポッターみたい! 行ってみたい」「赤っぽくてハロウィーンのような気分に」(いずれも10代女性)、「ぼやけた表現がすごい。こういう絵を家に飾って夜寝る前に眺めたい」(20代女性)などと絶賛するコメントが続く。美術館でも、絵の前で立ち止まり、目を凝らして見つめる人が目立つ。
「見せつつ隠す効果」
「夜のパリ」が2位と大健闘した結果について、美術館の福元崇志研究員(36)も「意外です。全くノーマークでした」と驚く。フランス近代絵画は専門外ということもあってか、画家の名前も初めて聞いたそうだ。
なぜ、この「無名」の絵が人を引きつけるのか。総選挙のコメントで目立ったのは「幻想的」。ただ、福元さんは「当時の人には幻想的ではなく、むしろ最新の風景。街灯などの設置で夜でも見えるものが広がっていったパリの街は、新鮮だったはず」と推測する。
その上で、現代の私たちが「幻想的」と感じる理由について「太陽の光と、ショーウィンドーなどの人工の光という二つの異質な光を描き分け、謎めいた感じを醸し出している。また、いずれも薄明かりで、街を描いているのに人の表情は見せないなどの『見せて隠す』効果で、無意識に引きつけられたのではないでしょうか」と語る。
主役「草上の昼食」は
なお、展覧会の最大の注目作、初来日のモネ「草上の昼食」は394票で7位と意外な結果に。ただ、一票を入れた人からは「木(の幹)にハートマーク。小技が効いている」(40代女性)、「(女性がまとう)ドレスが今でもはやりそうできれい」など、たくさんの支持コメントが寄せられた。
ちなみに、福元さん自身が1票を入れるとしたら、クロード・ロランの「エウロペの掠奪(りゃくだつ)」か、セザンヌの「サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め」。理由は「画家の葛藤が見えるから」だそうだ。
4~10位の作品と票数は次の通り。
4位 ジュール・コワニエ/ジャック・レイモン・ブラスカサ「牛のいる風景」(19世紀前半)470票
5位 ルイジ・ロワール「パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)」(1885年)428票
6位 モネ「陽(ひ)だまりのライラック」(1872~73年)403票
7位 モネ「草上の昼食」(1866年)394票
8位 ルノワール「庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰」(1876年)255票
9位 アンドレ・ドラン「港に並ぶヨット」(1905年)253票
10位 フェリックス・フランソワ・ジョルジュ・フィリベール・ジエム「ボスポラス海峡」(19世紀前半)202票
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展覧会は10月14日まで。月曜休館(10月8日を除く)。午前10時~午後5時(金・土は午後9時まで。午後5~9時は写真撮影がOK)。入場は閉館の30分前まで。一般1500円、大学生1200円、高校生600円、中学生以下無料(要証明)。公式サイトは
http://pushkin2018.jp/
(福野聡子)
クロード・モネの「白い睡蓮(すいれん)」
票を入れた人の感想:「たくさんの種類の緑がきれい」「自然に包まれている感じ!」(いずれも10代女性)、「まぶしいくらいの光が毎日を彩ってくれそうだから(毎日が光であふれるわけではないからこそ……)」(30代女性)、「死んだ時にこういう天国がいい」(90代男性)
アンリ・ルソー「馬を襲うジャガー」
票を入れた人の感想:「ジャガーが馬に抱きついている感じがかわいい」「国も時代も夢かうつつかも不明な雰囲気が好き」(いずれも40代女性)、「高校の美術の作品を作る時、『草』を描くのが苦手な私に先生が見せてくれた絵」(20代女性)
ジュール・コワニエ/ジャック・レイモン・ブラスカサ「牛のいる風景」
票を入れた人の感想:「動物の絵が得意な画家と風景が得意な画家のコラボで、すてきな絵に」(20代女性)、「牛の毛並み、木の皮、空が細かくてドキドキ」(40代女性)、「奥へ行きたくなる」(20代男性)、「右側(手前)の木が豚に見えて面白い」(20代女性)
ルイジ・ロワール「パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)」
票を入れた人の感想:「大画面の迫力。蒸気に臨場感」(50代女性)、「道が遠くへ広がる遠近法やリアルな馬のお尻など、見たことがない絵」(60代男性)、「遠くから見ると吸い込まれて、その道を歩いているようだ!」(70代女性)、「人の生活と発展が感じられ、音さえ聞こえてくる」(20代女性)