実物と複製、虚と実、表と裏。そのあわいに目を向け、境界の不確かさを浮かび上がらせてきた美術家・大西伸明(47)の個展が、関西の二つのギャラリーで開かれている。一方は立体、一方は版画と、素材もアプローチも異なる2展だが、過去の作品群とも共通する作家の関心が浮かび上がってくる。
扉を開けて、目に飛び込んでくるのは壁一面の星空。黒い紙に銀のインクを載せた版画が、縦と横に5枚ずつ、計25枚並べられている。大阪市城東区のギャラリーノマルでは、この「Star」をはじめ、スループリンティングという独自の技法を用いた新作版画が展示されている。
身近に存在するものを型どりし、精緻(せいち)に彩色した立体作品で知られる大西だが、その根底にあるのが版画だ。京都市立芸大で版画を学び、オリジナルと複製の関係に興味を持った。本物そっくりの精巧さで一部だけが透明な「Infinity Gray」シリーズが、実質的なデビュー作。版画の立体版とも言え、リアルとフェイクのあいまいな境界を鑑賞者に突きつける。
その大西が考案したスループリンティングは、スクリーン印刷を応用した技法。まんべんなくインクをこし出すのではなく、スプレーでインクを吹き付けるため、画像をぼやけさせることができる。
「Star」は、全てに同じ版を使っているが、銀の点の位置やにじみがそれぞれ異なる。それは、紙をしわくちゃにしてからインクを吹き付けているため。シワのつき方でインクの載り方が変わり、反復されていくはずのイメージは、この世に一つのオリジナルとなる。
「Heart」は、左右対称のデカルコマニー(合わせ絵)のイメージを、スループリンティングでぼかし、左右非対称にした作品だ。「Heart-half」は、支持体を立体にすることで、コントロールのできないインクの広がりを作り出している。
兵庫県芦屋市のギャラリーあしやシューレでは、「ひび」に着目した新作シリーズ「Untitled edge」を展示している。本来は何もない虚の空間であるはずのひびの隙間を型どりし、立体にして壁に配した。実体のないものが実体を持ち、裏側の世界が表に現れてくる。
「自分のいる場が、虚なのか実なのか。空間がひっくり返ったような感じをつくりたかった」と大西。また、ひびの隙間の空間と、デカルコマニーで紙の間に挟まれたインクのイメージは、つながっているという。
「中間領域に興味を持っている」。相対する概念の境界が揺らぎ、時にはひっくり返る。そんな鑑賞体験が、大西作品には共通している。
ギャラリーノマル(06・6964・2323)の展示は5月18日まで。日祝休み。あしやシューレ(0797・20・6629)の展示は4月27日まで。21、22日休み。(松本紗知)