西純矢(2年)をどう攻略するか。高校野球の秋季中国地区大会では、どの出場校も創志学園(岡山3位)が擁する150キロ右腕への対策を迫られてきた。3日の準決勝。24回目の選抜出場を目指す広陵(広島1位)が、その壁に挑んだ。
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147キロ。西の第1球は、力感あふれる直球だった。今夏の甲子園で選抜8強の創成館(長崎)から16三振を奪う原動力となった切れ味抜群のスライダーも健在。ただ、広陵打線に戸惑う様子はなかった。
二回、襲いかかる。5番宗山塁(1年)の右前安打をきっかけに、犠打、死球で好機を作る。9番河野佳(2年)が初球のスライダーを完璧にとらえ、左前に先制打をはじき返した。
中井哲之監督が言う。「森を毎日、打ってたからね」。森とは、前チームのエースで最速149キロを誇る森悠祐(ゆうすけ、3年)のことだ。他にも140キロ台の直球を持つ3年生の投手にはマウンドの数メートル前から投げてもらい、速球対策を積んできた。
ただ、さすがの西は簡単に連打は許さない。三回以外は毎回走者を出したが、1失点のまま踏みとどまった。援護を待つ西をよそに、味方は攻めあぐねていた。
試合が一気に動いたのは、八回。広陵は無死一塁、監督が「接戦で勝つ」と監督が決めたように、犠打で1点を奪いにいった。ここで、西がバント処理でもたつく。創志学園の信条は、「守備からリズムを作って、攻撃へ」。その根底が揺らいだ。
無死一、二塁、次打者も犠打を試みる。今度は一塁のベースカバーに入った二塁手が落球した。満塁に。西の心は乱れきっていた。「僕がエラーをした時点で、気持ちが切れてしまっていました」
詰まらせた打球が適時打になる。スクイズも許し、味方にまた失策が出た。西は表情を失っていた。最後は広陵の4番に右越えの2点三塁打が飛び出し、一挙6点を失った。八回コールド。西は本塁付近で、ぼうぜんとしながら敗戦の瞬間を迎えた。堅実に攻め抜いた広陵が勝ち、創志はミスに泣いた。
実質的に、来春の選抜出場のかかった一戦。西は力み、ボールは高めに浮いた。「いいボールと悪いボールがはっきりしていた。直球は棒球でした」と無念そうに振り返る。
とは言え、西が周囲に与えてきた影響は大きい。
広陵のエース河野は8回無失点の快投を見せた。中井監督から「西より、低く放れ」と何度も言われていた。河野の最速も147キロと負けていないが、球威で張り合わなかった。制球重視の投球で勝負に徹したから、三塁を踏ませない内容になった。
「西君は素晴らしい投手。トーナメントが決まった時点で対策を考えていた。打たないと甲子園にはいけないので」と中井監督は振り返る。この試合だけではない。県内でしのぎを削る関西(岡山2位)の浜田真吾監督は、「岡山のどこの学校もいま、短くバットを持つのが主流。西対策で、岡山全体のレベルがあがっている」と語っていた。
その地域の野球の質を変えてしまうほどのエネルギーを、2年生右腕は秘めているのか。試合後の西は神妙な表情だった。「感情のコントロールが一番の反省点。まだまだ下半身も弱い」。まさに、未完の大器だ。当然、ライバルたちも黙っていない。1人の投手が熱くさせた中国地区の、一冬越えた後の勢力図が楽しみだ。(小俣勇貴)