25日の第1試合で延長にもつれ込む投手戦を制した龍谷大平安(京都)。守備の要、捕手の多田龍平君(3年)に平安入りを勧めたのは自身も平安を卒業した姉だった。弟の入学以来、ほぼすべての試合に駆けつけ、弟にダメ出しをし続けてきた。「弟が甲子園で平安のユニホームを着てプレーする姿を見る」という姉の夢が、ついにかなった。
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姉は会社員の智恵(ちえ)さん(26)=奈良市。アルプス席最前列で応援した。
小学6年の頃からタイガースファン。月に1度は弟を連れてでかけた甲子園が縁で高校野球も好きになった。「在校生としてアルプス席で応援したい」と、近畿有数の伝統校である平安高校に進んだ。入学直前の春から、平安が甲子園に出るたびに弟と観戦に行った。
多田君が小2で野球を始めたのも姉の影響だった。中2の冬には智恵さんから「野球を続けるなら平安に入ってほしい」と練習見学に誘われた。
はじめは強豪の平安で通用するか心配で見学を渋ったが、1カ月間毎日のようにくどかれ、熱意に折れて見に行ったとき、心をつかまれた。大きな声を出して球に食らいつく選手たちを見て「格好いい」とほれ込み、進学を目指した。
「私が弟にできることは応援しかない」。智恵さんは多田君の入学後、弟の出場の有無に関わらずほぼすべての練習試合と公式戦の応援に駆けつけている。試合後に、寮で暮らす弟に送るLINE(ライン)の内容はほとんどがダメ出し。グラウンド整備でトンボをかける姿を見て「きびきび行動しなさい」。ピンチで投手に声かけしなかったときは「捕手として恥ずかしい」。弟からの返事はほとんどなかったが、「伝統ある平安の選手として自覚を持ってほしい」との思いからだった。
多田君は昨秋の府大会で初めて背番号2をもらった。発表の当日、寮に戻ってすぐ写真に撮り、智恵さんにLINEで送った。「弟が平安に入れたのも信じられないのに、1桁の背番号をもらえるなんて」。智恵さんは写真を見て、涙があふれたという。
昨秋の近畿大会決勝にも駆けつけた智恵さん。延長十二回裏、2死満塁で回ってきた多田君の打席は目を閉じて手を合わせ、「アウトにはならんといて」と祈った。応援団の歓声で顔を上げると、逆転サヨナラ打を放って仲間にもみくちゃにされる弟の姿があった。その日の夜、弟に「おめでとう」とLINEを送ると、珍しく「ありがとう」と返ってきた。
多田君は守備で貢献。五回のピンチには冷静に守備陣へ声をかけ、好リードで後続を打ち取るなど、最後まで失点を許さず初戦突破に一役買った。「姉が平安入りを勧めてくれなかったら、間違いなく甲子園に行けていなかった。一番近くで支えてくれた。今後も勝ち進んでいいところを見せたい」。智恵さんは「弟がまぶしかった。最後までミスをしないか、心臓が口から出るくらいドキドキしていました。校歌を歌わせてくれて感謝しています」と話した。(川村貴大、吉村治彦)