ひざを深く曲げ、腰を落として構える。国士舘(東京)の4番黒沢孟朗(たろう)君(2年)が独特の打撃フォームで打席に立った。相手投手に威圧感を与え、四球などで出塁した。
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身長は167センチだが、スイングは力強い。フォームは中学時代に身につけた。石川県白山市出身で、当時、地元の硬式少年野球チームに所属。野球を教えてくれていた父精一さん(47)の「下半身を強くしよう。打席で低く構えることで脚力をつける」という言葉がきっかけだった。
高校進学にあたり、石川県を出て東京へ。他県のいくつかの高校と悩んだが、「東京の方が大学野球関係者の目に触れる機会が多く、進学の幅が広がるのでは」と考え、国士舘に決めた。野球部の寮はあったが、建設業を営む精一さんが東京でも仕事ができることから一緒に上京。2LDKのアパートで2人暮らしを始めた。2人とも自宅に帰るのは午後9時過ぎ。精一さんが夕食を作る。メニューはトンカツなど肉料理が多い。朝は毎日ホウレン草入りカレーだ。「栄養たっぷりのものを作るようにしている」と精一さん。掃除や洗濯、食器洗いは黒沢君の仕事だ。居間で60センチの短いバットで素振りし、精一さんがフォームの乱れを指摘する。
参考にしているのは、小柄ながら重心の低い構えでフルスイングするプロ野球・西武の森友哉選手のフォームだ。「上から来るボールを力強く打ち返す。相手投手もストライクゾーンが狭く感じて投げにくいはず」と黒沢君。昨秋の東京都大会でも4番としてチャンスで打ってきた。永田昌弘監督からは「黒沢が打って勝ってきた」と認められる。
選抜出場が発表される2週間ほど前の1月12日、柔道の授業で左足首を脱臼骨折、靱帯(じんたい)損傷の大けがを負った。全治3カ月と診断され、手術をした。病院でリハビリに取り組み、車いすに乗りながらバットを振った。病院食に加えて精一さんが毎日作ってきた米3合分のおにぎりが力を与えてくれた。
3月上旬にチーム練習に復帰。選抜に間に合った。「けがをしていたのに、4番で使ってもらった。期待に応えたい」と試合に臨んだ黒沢君。「打席に立てたのはうれしかったが、実力がなかった。またここへ戻ってきたい」と話した。(山田知英)