春夏通じて初の決勝進出を目指した明石商(兵庫)は、2日の準決勝でも投手が切れのある速球を投げ、打線が鋭い打球を飛ばした。東邦(愛知)に敗れたものの、相手に「一人一人にパワーがあった」と言わしめた。肉体改造を続けてきた成果の一つだ。
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今大会、チームは計5本塁打を放った。この日の準決勝でも3点差を追う八回に4番の安藤碧君(3年)が右中間に特大の2点本塁打を放った。
今大会でサヨナラを含む2本塁打を放った来田涼斗君(2年)は「トレーニングのおかげで筋肉がつき、打球が飛ぶようになった。けがもしにくくなった」。
全4試合に登板したエースの中森俊介君(2年)は「肩関節の可動域が広がり、球威が増して、肩が痛くなることもなくなった」と、筋力トレーニングの成果を実感している。
彼らの筋トレを支えるのは、元高校教諭の篠田健治さん(67)=兵庫県明石市=だ。2014年12月から、週3回、ボランティアで明石商で部員に筋トレを指導している。34年間ウェートリフティング部の顧問を務め、明石南(兵庫)では全国高校総体で優勝に導いた経験がある。
指導のきっかけは、14年秋の県大会。1回戦で報徳学園に2―6で敗れた。強豪校に勝つには「パワーとスピードが必要だ」と、狭間(はざま)善徳監督(54)が、14年春に退職していた篠田さんを訪ね、頭を下げた。「(18年夏の)第100回記念大会では、甲子園に出たい。協力して頂けませんか」
2人は県立高校で元同僚だった。篠田さんは同僚時代に野球部コーチとして指導に打ち込む狭間監督の姿勢に好感を持っていた。監督が明徳義塾(高知)へ移った後も、ずっと気にかけていたという。「よし、行こうか」。篠田さんは快諾した。
指導ではパワーアップだけでなく、筋肉の柔軟性やバランスも考えている。
「ゆっくり、大きく」「下半身から肩甲骨へ伝えるように」――。2月に訪れたときには、30キロのバーベルを担いだまま跳ぶトレーニングや長さ約1・5メートルのゴムチューブを両手で持ち、上半身を大きく動かす運動をしていた。篠田さんが大きな身ぶり手ぶりで矢継ぎ早に指示を出し、選手たちは苦しそうな表情を浮かべながら、バーベルを上げる回数を数えていた。
篠田さんの指導で選手たちの筋肉量が増え、柔軟性も増した。昨夏は目標通り甲子園に出場。評判を聞き、県外の強豪校の指導者も見学に訪れるようになった。
昨秋も県大会を制し、県内の公式戦では17年秋から27連勝中だ。狭間監督は「投手の球速や打者の打球の飛距離が伸びた。けが人も大幅に減った。先生がいなければ、甲子園には来られなかった」と話す。
篠田さんは1回戦から準決勝まで、4試合とも甲子園に足を運んで声援を送り、この日は安藤君の本塁打を立ち上がって喜んだ。試合後、「本当によくがんばってくれた。トレーニングも、いい動きの一因になったのではないか」と喜び、さらなる選手たちのサポートを約束した。(森直由、吉村治彦)