武者小路実篤(1885~1976)。東京・調布の自宅の庭で(65年ごろ)
■文豪の朗読
《武者小路実篤が読む「友情」 奥泉光が聴く》
主人公野島は知り合いの妹杉子を好きになる。このことを親友の大宮に相談すると、大宮は野島の恋を応援してくれる。大宮は杉子に野島の素晴らしさを説く。ところがそうしているうちに杉子は大宮が好きになってしまう。困った大宮は杉子に冷淡な態度をとる一方、野島の美点をますます賞揚(しょうよう)するのだけれど、そうすればそうするほど杉子は大宮が好きになってしまい、しかも大宮は杉子のことが本当は好きなので、ついに友情を捨て恋をとって野島は絶望する――というのが『友情』のあらすじで、失恋は、人類への貢献とならび、武者小路実篤得意の主題なのであるが、恋を得た者は、それがゆえにばりばり仕事をして人類に貢献をし、敗れた者は敗れた者で、失恋をバネに頑張りを発揮し、ばりばり仕事をして人類に貢献することが期待されるのが、武者小路実篤的失恋物語といってよい。
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『友情』で際立つのは、フラン…