北杜夫(1927~2011)。精神科医でもあった
■文豪の朗読
《北杜夫が読む「白きたおやかな峰」 堀江敏幸が聴く》
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一九五八年秋から翌年春にかけて、北杜夫は漁業調査船に船医として乗り込み、インド洋から欧州までの航海を体験した。帰国後に発表した『どくとるマンボウ航海記』は、絶妙な自虐をまじえたユーモラスな語り口によって多くの読者を獲得したが、「どくとる」にはもうひとつ、硬派な一面があった。それを確認するには、ナチスの医療行為を扱った『夜と霧の隅で』や、父親である斎藤茂吉を軸に、一族の歴史を描いた長篇『楡家の人びと』を挙げれば十分だろう。
ふたつの顔を持ったまま、彼は…