福岡県糸島市の男性課長(当時52)が自殺したのは、市が適正な業務分担を怠ったことによる過労が原因だとして、遺族が市に約7760万円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が10日、福岡高裁であった。金村敏彦裁判長は「上司に安全配慮義務違反があった」などとして、遺族の請求を退けた一審判決を変更し、市に計約1650万円の支払いを命じる逆転勝訴の判決を言い渡した。
判決によると、男性は農林土木担当課長だった2010年6月に自殺。条例案をめぐる地元説明や議会対応に追われ、自殺直前の1カ月間の時間外労働は約114時間に及んだ。うつ病も発症していたとして13年に公務災害と認定された。
今年1月の一審・福岡地裁判決は、自殺前の半年間に時間外勤務が100時間を超えたのは1カ月だけで、男性の心身の不調を市が認識できたとは認められないと判断し、原告敗訴の判決を言い渡した。
高裁判決は、自殺前の仕事量が管理職の平均的な業務と比べ過重で、疲労や心理的負荷が過度に蓄積していたと指摘。自殺直前にうつ病も発症し、「公務と自殺の因果関係を認めることができる」とした。
また上司の部長が男性の過重な業務を認識し、勤務時間を減らしたり職務分担を変更したりすれば、負担の軽減が可能だったと判断。メンタルヘルスに関する相談を受けるよう勧めることで自殺回避の可能性があった点も含め、市の安全配慮義務違反を認めた。
一方で賠償額については、男性が管理職として業務を部下に割り振って自分の労働時間を適正に管理する意識が弱かったことや、メンタルヘルスの相談制度を利用しなかったことなどが自殺に寄与したとし、8割の過失相殺をするのが相当と判断した。
男性の妻は代理人弁護士を通じて「これでやっと仕事が原因で亡くなったと認めてもらった。市には二度と同じような犠牲者を出さないことを願う」とコメントした。
糸島市は「判決の内容を確認したうえで今後の対応を検討する」とした。(小野大輔、張守男)