決勝3ランを放った阪神の糸井
(5日、阪神4―1ヤクルト)
同点の七回2死一、二塁。舞台は整った。阪神打線、打席にはオリックスから移籍してきた糸井。役者もそろった。本人も「ここしかない」と分かっていた。2球目、真ん中に来た153キロをかっ飛ばした。
昨年まで本拠だった京セラドーム大阪で、白球を右翼ポール際の5階席まで運んだ。打った瞬間に、糸井は確信。ガッツポーズを見せ、打球がスタンドに届くのを確認してから、悠々と走り出した。連敗に終止符を打つ勝ち越し3ランに「完璧でした」。
35歳の一日は、全体練習が始まる前、ロングティー打撃をすることから始まる。オリックス時代のチームメートから「常にバットを持っている」と評されるほど、ずっと続けているルーティンだ。背景には、少しの劣等感がある。
2003年秋、近大から日本ハムに入団した当時は、投手だった。練習では、野手よりバットを振る量が極端に少ない。遅れた分を取り返そうとしているのだ。野手に転向して12年目のシーズン。14年に首位打者のタイトルを獲得しても、姿勢は変わらない。
この夜の一発で、昨年9月以来の3試合連続本塁打。その月、日本ハム・大谷の164キロを打ち返し、日本で一番速い球を投げる右腕について「底知れぬアレがある」と語っていた。糸井にも“アレ”があるのは間違いない。成長を求める「向上心」と、一振りで試合を決める「華」だ。(井上翔太)
○秋山(神) 七回途中1失点の好投。「緊張せずに行けた。立ち上がりは、自分でもびっくりするぐらい良かった」
○梅野(神) 同点の七回1死二、三塁のピンチで内角攻めを貫き、無失点で切り抜ける。「打者も初球から勝負に来る。かわすより、攻め込んだ」
○金本監督(神) 入団交渉で「恋人」と口説いた糸井が決勝3ラン。「ああいう場面で打てるのが、打者として最高の価値」