

台風21号は23日午前、広い範囲を巻き込みながら、東北地方を北上した。台風が接近した地域では土砂が民家を襲い、不安な一夜を過ごした人々は、一様に疲れた表情を見せた。
福島県内では郡山市が23日午前9時、阿武隈川流域の約3万6千世帯(約8万人)に避難指示を出した。午前5時ごろには鏡石町の東北自動車道下り線で、倒木が道路をふさぎ、大型トラックなど6台が衝突する事故があった。県警は強風で木が倒れたとみている。
茨城県常陸太田市ではアユ取りに出かけた男性(61)が22日夜になっても戻らず、増水した川に流された可能性もあるとみて、県警などが捜索している。
千葉県富津市では、高潮などの影響で停泊中の漁船14隻が陸に乗り上げた。東京でも23日朝、大田区の多摩川の中州に取り残された8人をヘリでつり上げるなどして救助した。
被害は関西地方でも。
「雨の音とは違う『ゴー』という音を聞いた」
和歌山県紀の川市に住む女性は22日夜の様子を振り返った。直後に近くののり面が崩れ、隣家の1階部分が土砂で埋まった。消防によると、夫婦とみられる男女が巻き込まれ、70代の女性は救助されたが、80代の男性は呼びかけに応じない状態で見つかった。
大阪府岸和田市では土砂が川をせき止め、大量の水があふれた。23日朝には冠水した道路に沈んだ軽乗用車内で女性(68)が見つかり、死亡が確認された。
交通も乱れた。JR東海によると、東海道新幹線は22日夜、岐阜羽島―米原間のトンネルで漏水が架線にかかって停電。同区間で下り2本が立ち往生した。23日未明に復旧したが、42本が最大約8時間遅れ、乗客は車内で一夜を明かした。
都内の会社員佐藤大介さん(41)はプロ野球セ・リーグのクライマックスシリーズを観戦しようと広島に向かい、帰りの新幹線が立ち往生した。車内ではポリ袋式の簡易トイレが用意された。「会社は完全に遅刻です」と話した。
北陸新幹線も23日午前7時過ぎ、上田―佐久平間を走行中の「あさま」が倒木に接触。富山―東京間の上下線で一時運転を見合わせた。山形新幹線も始発から福島―新庄間の運転をとりやめた。
首都圏ではJR湘南新宿ライン、京浜東北線、中央線などの全線や一部で始発から運転を見合わせ、東海道線、常磐線などで通常より本数を減らして運行した。東北でも常磐線、東北線など広範囲で運行ができなくなった。空の便も正午までに日本航空と全日空で計249便が欠航。高速道路も中央道、圏央道などで通行止めが相次いだ。